我々が付き従うリンテントポーゼ領主姉妹は自ら戦闘へと身を投じていた。姉であるデリフィーンは
若い頃から各地を歩き回っていた為に野外活動は慣れており、さらには厄介事に首を突っ込む事で
自然、荒事にも心得があるようであった。しかし、妹は姉ほどに粗野ではないらしく、このまま我々が
一の矢となって星屑の小川を遡っていくのには不安が残った。大事な末妹に何かあっては元も子もな
い、という訳である。その不安を取り除くために自警団の他に４人、リント領部隊に助っ人が加わった
のだが、念には念を、城内へ短絡するルートであろう庭、小川、砂地、各地形を把握し、敵の持つ傾
向を探ってから進軍しよう、という流れになった。少なくとも自分はそう認識している。王の首を獲る、
王のエンブリオを奪うにしても、こんな悠長な事をしていていいのかという不満も無い訳ではないが、
先行する部隊あるというのは利点が大きいのも確かだった。漏れ聞こえる情報があれば対策も立てや
すく、なにより、奇襲をかけられる心配が減る事で余裕が生まれ、体力の消耗や、神経が磨り減る度
合いが違ってくる。いざ王の前に立った時、摩耗した状態では話にならない。そう自分に言い聞かせ、
焦りを鎮めた。

　我々が今日進攻したのは、枯れた土地と呼ばれる、文字通り水気もなく、ひび割れた大地が延々と
広がるという気が滅入るような場所だった。遮蔽物が少ないため奇襲を受ける事は少ないが、不毛な
地にも負けぬ力強い生物がひしめいており、油断は禁物であった。

　毒を持つ生物や、オオカミなどがうろついているという話も聞いていたので、殊更に気をはっていた
のだが、我々遊撃隊の前に立ちふさがったのは、間の抜けた顔をしたハニワというエンブリオだった。
我が一族の伝承によれば、古にこの地を支配した者たちが何らかの目的を持って造り出したエンブリ
オといわれており、その生態には謎が多かった。さらに言えば、契約後に得られる力も不可解極まりな
く、正しく扱う為の知識は既に失われている為、非常に取り扱いが難しい、とも伝えられている。だが、
私にとってはハニワと結ばれる事は非常に都合が良かった。一族の目的の一つである、残された知
識を紐解く鍵となりえるからだ。以前から、それこそ旅に出た当初から、機会があれば契約し、その深
奥を覗いてみたいと考えていた。

　我が隊は終始、戦闘に置いて優位を失わなかった。というより、向こうが勝手に自滅していったのだ。
遥か古来より駆動しているとはいえ相当に摩耗しているようで、自らの力を制御する術も持たない為
に、暴走しているようであった。自爆と修復を繰り返す内に、本来の機能を失っていったのであろう。

　ハニワはついに、ひび割れ、散り散りに砕け、動く事もままならなくなった。そうして、一瞬光の霧に
包まれたかと思うと、こちらの力を認めるかのように、本来の姿、鎧として造られたその身をさらした。
原型を留めているとは思えぬ程に混沌とした形状は、見ていて痛ましいと思わせる。その鎧は、のろ
のろと、しかしそれで精一杯だと分かる、軋んだ音を響かせながら、こちらの伸ばしたロープを掴もうと
手を上げた。



　私は古き結び目、イヨールノット。中空の器に満ちしもの、形を変え、私に従え。

40cmほどの大きさの人形がとても軽い足音立てながら走ってくる。

スカートを持ち上げて一礼。
笑顔を向けた後に、踊るようにしてくるりと背後へと回り込む。


遅れてやってきたのは、身長は170前後、青髪の耳長の女。