南洋の島・ピエドラ・デ・ルーナには神殿を守る自警団、通称「月守」がいる。
下は１４歳から上は７０歳までの年齢層が幅広い彼らには武術だけではなく、神殿を警護するものとしての教養と品格も求められている為、礼儀正しくそして理性的だ。
彼らの仕事は神殿の警護のみでなく、島を訪れる要職の人々の警護も務める事がある。
腕が認められればそのまま召し上げられる事もあり、過去には島の自警団員から王宮騎士へ華麗な転身を遂げたものもいる。
月守は、島だけでなく島の近隣に住む人々にとって、一つの登竜門でもあるのだ。

アマティスタは巫女見習いとして幼いころより神殿で暮らしているから、月守はとても身近な存在である。
だから、「兵士」とは逞しくて優しい人々…という認識があった。
もちろん島にバカンスにやってくる人々の中には、荒くれた戦士もいなくはないが、彼らは腕一本で世界を渡り歩く人々であり、同じ男としてそういう面にあこがれなくもないから、怖いと思った事もなかった。

「…でも、あの兵隊さんは怖かったねぇ…」

今日の野営地で食事の用意をしながら、アマティスタは自分の頭上で羽を休めているアルパにだけ聞こえるよう小さな声で、ぽつっとつぶやいた。

「月守のみんなとも、島にくる傭兵さん達とも違って、怖かったね」

初めて本気で武器を構えた人と対峙したから怖かったのか、人に殺意を向けられたのが怖かったのか、彼らの必死さが怖かったのかはわからない。

「怖がっていたの、シェリィやモモカには内緒にしてね」
「………」

アルパが体を揺らす。笑っているのか、うなづいているのかはわからない。アルパは天使で、本来人型になれるはず…らしいのだが、まるで人魂のような姿で、つぶらな目しかなく、まだ口もきけない。
内緒話を暴露される心配は人間相手にはないのだが、エンブリオ同士、言葉以外で意思の疎通ができる可能性はある。
釘を刺しておくに越したことはない。

「約束だよ、アルパ」
「………」

そんなの知らないよ、とでもいうように、アルパは頭上を離れてくるくると円を描きながら飛んでいた。

（２人に対して相変わらず表情の薄い顔のままで再度頭を下げる。シス君の言葉に、左右色違いの視線がそちらへと向けられて）

（シス君の言葉に、そのフワフワ頭をくしゃり、と乱雑に撫でつつ）