「ゴーっブゴブゴブゴブっ！」
「「コボコッボー！」」


平原の草むらに隠れ潜みながら、高笑いをあげる謎の一団が居た。
高笑いをあげれば隠れ潜んだ意味がないだろうに、彼らは意にも介さない。
それは小汚い子鬼ゴブリン1匹と、犬顔亜人のコボルト2匹だった。


「国がいっきだか何だかで大混乱してる今こそ、虐げられてきた我等の反撃のチャンスだゴブ！
　平原を一人とぼとぼ歩いてるぼっちをとっつかまえて、ボッコボコにするゴブー！」
「さすがアニキ、考えることがセコイコボー。」
「でも、別に僕らは虐げられてないコボ。ゴブリン族の自業自得コボ。」
「言うな兄弟コボ。協力者がコボルト2匹って時点でアニキの友好関係を察しろコボ。」
「ようは、ぼっちがぼっちを襲ってうさ晴らしって事コボ？」
「コボコボ。切ないコボなぁ…。」
「う、うるさいゴブっー！」

そんな一団を、平原を一人で歩くぼっち、ライネが眺めていた。
全く隠れ潜めていないゴブコボの一団は、見晴らしの良い平原からは丸見えだった。
ゴブリンといえば、ことある毎にちみっちい悪さをする事で有名な嫌われ者だ。
コボルトは………まぁ見ようによっては可愛いのでそこまで嫌われてはいないが。

魔法少女ライネの正体は、王に対する反逆者を罰する執行官である。
しかし、今のライネは正義のヒロインでもあった。
何か悪さをしようとするならば、止めなければいけない。
ライネは意を決して彼らに近づいていった。


「あ、そんな事よりアニキ！あの女こっちに来るコボ！」
「そ、そんな事ってなにゴブ！？大事な話ゴブ、ゴブはぼっち違うゴブ！」
「些細なこと気にし過ぎコボ。それより、3匹で囲んでコボる作戦はどーするコボ？」
「さり気にボコるを自分流に言い換えるなゴブ！そのキャラ付けずるいゴブ！」
「………うるっせぇなぁ、弱いくせにコボ。」
「———ゴブっ！？」


場の空気が凍りついた。
冷たい目を向けたコボルトの片割れ。さすがは水属性な眼差しだ。
もう片方のコボルトも、あー言っちゃった、てな顔を浮かべたが、フォローはしない。
ゴブリンは、手下だと思っていた相手の態度の急変についていけず、ガタガタと体を奮わせた。


「お、お、お…、おまえらアニキ分に対してえらそーな…ゴブ…。
　代々、コボルトはゴブリンの手下って相場が決まってるゴブ…。」
「いつの時代の話してんだーコボ。
　今時、もふもふプリティなコボルトは、プレイヤー側に寝返って可愛がられる時代だコボ。
　人気投票でもして結果見ろコボ。」
「そもそも、ゴブリンよりコボルトの方がランク上コボ。ゴブリンなんてガードしてばっかりで全然役に立たねーコボ。」
「そ、それは力溜めてるだけだゴブ…。10行動目に本気出すゴブ…！」
「出してもあの程度コボ？」
「ゴブッ———」


ゴブリンが倒れこんだ。
ゴブリン族の中でも一際ぼっちな彼は、コボルトを連れ回す事で初めて己の価値を見出せていたのだ。
だが、それは幻想だった。その幻想を、当のコボルト達によってぶち壊された。
もはや彼には何も残されていない…。
そう、一人ぼっち、なのだ。

そんな時、一筋の光明が舞い込んだ。
辛い現実に挫折し、落ち込んでいた自分に救いの手を差し伸べてくれる、まさに女神だった。
目の前に立ち塞がる強大な壁は、一人では決して越えられない。
だが、愛すべき伴侶とならきっと越えられる。
そう、僕は一人では無いのだ！
二人で——いや、子供も沢山作って、皆で歩いていける！
僕の人生は、今やっと始まったばかりなんだ！


「結婚してくださいゴブ。」

ゴブリンが背を向けて地面にのの字を書き始めた。
だが、そんな事は些細な問題だ。ゴブリンなんて所詮は雑魚。
この場で危険なのは、そんな相手ではない。


「くんくん………。あの女、おかしくね？コボ。」
「………くんくん。だよねだよね、コボ。アレってきっと——」


コボルト達は、イヌ科の嗅覚を存分に発揮し何かしらの違和感に気付いたようだ。
その時のライネの反応速度は、ゴブリンの告白を断った瞬間に匹敵した。
素早くリボンを振りかざし雷を纏う——

「「横暴コボっーー！！？」」







そしてゴブリンは、自分の殻に閉じこもりガードを始めた。

ふと視線を感じて振り向くと、そこには見知った顔。

近付きつつそう聞くが……
すぐに「ああ」と言う風に納得し、悪戯そうな笑みを浮かべる。

そう言って、トシは腕を組みながらライネに熱い投げキッスを送った。

↑※修行＝18禁ゲーをやり込むことらしい

プー、クスクス