パーティメンバーと少し離れた場所。彼らが留まっている場所とは風下にあたり、草原より突き出た小さな崖がいくつもそり出ていた。
その小高い丘の上に、一匹の獣が立っていた。眼前にある切り立った崖を向く獣の前には、小さなフレームが展開していた。
紋章をあしらったウインドウ。いくつもの文字列を表記する電工の光を目で追いかける獣は黙々とそれを見続ける。

【カーフェイネス:特級外殻を変換:“攻種族”切替:展開準備：動作安定化に入ります】

《急とはいっても、別世界によってこっちの動きが制限されると中々きついな》

パーティメンバーの目を掻い潜り、隙を見ては、この姿になっていたのは、動きに制限がかかっているかどうか確かめる為だった。
時に、人の生活の場から離れ廃屋に身を潜めたりや、高原の方まで飛んだ事もした。
今の所、人の身も獣の身も安定しているとは思うが。
……獣になった後、ふらりと寄った廃城では思いがけない展開となったが。
人気も無い場所。黒いドアを開けると何故か喫茶店となっていた。
不意打ち過ぎて、獣のままで入ってしまったが……。
闇豹という変わった名の店主だったが料理がとても美味しい。野菜もとても美味しかったので、また行けたら行きたいと思っている。

はぁっとため息をつくと、合わせた様に音が鳴り響く。浮かび上がる数字。０を刻み、１００%のラインまで一気に届いた。

【霊子召喚・展開開始】

獣の周りに無数の窓枠が浮かび上がる。其々に文字が走り、言葉が作られた。

“TYPE−ORIGIN:Χίμαιρα"
【召喚:カーフェイネス様の攻撃力関係を中心に召喚発動:全霊子召喚、高速統合攻撃力の上限を解除します】


浮かび上がった紋章が成立し、ぶわりっとひときわ大きな風が獣の周囲で巻き起こった。
獣の身が巻き上がる風に触れるごとに光の粒子に崩れていく。殆ど光と白の色が草原に舞う中、その気流の中心に青年の体が作られていった。
カーフェイネスはまず、下がったままの手で、

「……」

虚空を掴んだ。
そうやって自分の手を握り締める事で、手の存在を感じ、自分がいる事を知覚する。
許されてるとは、思うまい。ただ在る事を容認されているだけだと思い、彼は周囲を見回す。
先ほどとは比べ様も無いほど低く映る世界は、より一層広く高く感じた。
目の前へと掲げられウインドウを取り出した携帯機器で次々と消していく。
以前教えられた手順通り全て消し終わると、手に持っていたそれを懐へと仕舞おうとするが、まるで見ていたかのように電子音が鳴り出した。

「うわ」

思ったより音が大きい。パターン化されたアラーム音を止め、画面の中を覗き込むと、

「……“お腹がすきました”」

画面上、限界までアップにされたサラマンダーの顔が上下に揺れる。
ふんっふんっ！と鼻穴から炎を撒き散らし、画面から離れては尻尾を地面に叩きつけている。
結構なご立腹らしい。ごめんね、と謝りながら画面に表示されるパネルを操作する。
すぐさまサラマンダーの元へポップ系の炎ワームが落とされる。
互いに睨み合い、立ち合いが始まった。

（こういうリアリティさって誰が作ってるんだろう……）

こういうのが最近の子のブームなのだろうか。日々の子供達とのコミュニケーションの差を感じ、首を捻りながら思う。画面上ではまるでコブラとマングース並みの壮絶な戦いが行われていた。

今度こそ、その携帯機器を懐に納めると、彼は仲間達の方へと戻っていった。



＊Eno.696ティーチェ・濫波淋様の闇豹様をお借りしました＊

＞ご主人

感極まった様に、それを食べてる

*ピクッと微かに眉が動く*

　　　　　　静かにはたきを構え

　　　　　　手を離せば、握っていたはずのはたきは消える。

*何かを発見して嬉しそうだ*

　　　　　　静かにはたきを構え