お父さん。
お父さんが封筒を開いてると信じて、お願いがあるんだ。
ぼく、こっちのお手紙はお姉ちゃんにはあんまり読んでほしくないんだ。だから、隠れて読んでほしいの。
でも、お父さんがお姉ちゃんにも読ませたいって思ったら、読んでもいいからね？
きっと最初にこんな事書いてたら、お姉ちゃん怒るんだろうな。

なんでお手紙を分けたかって言うとね。ぼく、兵士さんと戦う事になったんだ。
王様のために戦ってる兵士さん。ぼくは一揆に参加してるから倒さないといけないんだ。
倒さないとぼくがやられちゃうもんね。
兵士さんは普通の人間さんだったよ。ぼくと違って戦う事に慣れてるだろうね。兵士さんなんだから。
人間さんの兵士さん。ちょっと言いにくいや。
兵士さんと戦うって知ったらね。お姉ちゃん、とっても心配すると思ったんだ。

きっと兵士さん達もエンブリオさんと契約してると思う。もしかしたら、ぼくよりももっとたくさん。
ネクターは王様が取り上げちゃったから、王様のために戦ってる兵士さんはもらってると思うんだ。
もし、兵士さんもあんまりもらってなかったら、王様はなんのためにネクターを独り占めしてるんだろう。
もしかしたら、王様は兵士さん達になんにもお話してなかったりして。

お父さん、言ってたよね。何事も中途半端にやれば、自分がケガをするだけだって。
ぼく、ちゃんと覚えてるよ。
だから、ぼく、全力で戦うよ。それで今までよりもっともっと落ち着いて戦うんだ。
確かに戦ってるとちょっとはケガする事もあるけど、皆のエンブリオさんの力で治してもらえるし、
大きなケガはまだしてないよ。これからも絶対したくないけど。
だからね。全力を出すんだ。ぼくが大きなケガをしないためにも。皆にもケガしてもらいたくないし。
それに兵士さん達もね。必要以上にケガさせたくないんだ。

手が滑ってとっても大変な事になったら、ぼく、戦うのが怖くなっちゃうと思うんだ。
ううん。今でも戦うのは怖いよ。だって、おうちに帰れなくなったら嫌だもん。
でも、その怖いとはちょっと違うと思う。自分でもまだよく分かんないけど、斧が持てなくなっちゃいそうで怖いんだ。
そうしたらもう戦えないし、おうちに帰る事になっちゃう。
おうちに帰るんだってずっとずっと思ってるけど、このまま中途半端で帰りたくないよ。
それに帰ったらお父さんのお手伝いをまたしたいから、斧が持てなくなるのは絶対に嫌なんだ。
だから、そうならないためにも頑張るよ。

大丈夫。ぼくは絶対に大丈夫だよ。だって、お父さんの子だもん。
絶対帰るから。おうちに帰りたいなんて弱虫だって言われても、絶対おうちに帰るよ。
お父さんとお姉ちゃんと約束したもんね。ちゃんと帰るって。
ぼく、約束を破らない男になるって決めたんだ。お父さんとも男の約束したもんね。

お父さんに話してたら、なんだかすっきりしてきたよ。ありがとう。
何かあったらまた書くよ。今度は楽しいお話が書けたらいいな。
ぼくも心配しないようにするから、お父さんもあんまり心配しないでね。
じゃあ、またね。

ヘリオスの掛け声に応じ。見知らぬ菫色の竜のもとへ、若干駆け足気味で集まってくる。

そういって目をハディートから周辺へと向けた。

どこか残念そうにため息をついた。

　　　　　すっと軽く頭を下げる

　　　　　やれやれ、というようなジェスチャーをわざとらしくして見せる