■Boiled rice is important...

——この冒険に出て一揆に参戦してから、シェリィが痛感し、頭を悩ませている事の１つ。


割に深刻な食料難、である。

溜息一つ。
攻城戦に参加しても、その辺りのモンスター類を倒しても、さしたる収入にならず。

残念な感じの食材をうまくシスが料理してくれたとしても、その食料すら購入がままならないというのは、どうしたものか。
仕方なく、周囲の自然の中で口にしても害のなさそうな草木や樹木等を探しているという始末である。

こんな有様では、そう遠くないうちに一揆の騒ぎに加算して、所謂“人狩り”——周囲の人を襲って金銭や装備を巻き上げるような輩が現れても全くおかしくない。

非常用に換金できる宝石類を常時少々は所持しているが、そもそもそれを買い取って貰う場所も安定していない。
以前ピエドラ・デ・ルーナの島で“アルバイト”をしていたような事をしようにも、やっぱりそれで稼げる場所もなく、こちらの方はレシュが居る現状では色々と都合が悪くそうそう出来そうにもない。


ぶつぶつと独り言のようにして手にした怪しげな草を眺めつつ、どう現状を打破するか頭を悩ませていたシェリィに、腰に下げた長剣の神聖石から現れた燐光を放つ少年妖精が声をかける。

同行者の身を気遣うというこの状況も、シェリィ自身にとってもなんだかこそばゆいような不思議な感情を伴うものであった。
今までは愛剣と、そこに宿るアークと共に、自分の身ひとつ何とかしてこればいい、そんな旅ばかりだったから。


周囲の草木で食べられそうなものを探していた皆から声をかけられて、シェリィはそちらに軽く手を振って返す。
こういう旅や誰かを気遣うというのも悪くは無い、そんな風に思って居る自分を少し新鮮に思いつつ。

（２人に対して相変わらず表情の薄い顔のままで再度頭を下げる。シス君の言葉に、左右色違いの視線がそちらへと向けられて）

（シス君の言葉に、そのフワフワ頭をくしゃり、と乱雑に撫でつつ）

気のせいとは失礼な！　とばかりに胸を張っている。
先程まで“不可視”だったくせに、とんだ理不尽発言である。

少女は如何に掴まれまいと努力したかぷんすかしながら語っていたが、女性が頭を下げたことで幾分か落ち着いたようだ。
それでもかなり尊大な態度ではあるが、だがおそらくこれが彼女の常なのだろう。

（少女に向けて）やや呆れ顔に近い表情を向けていた青年は、しかし自身に視線が来ると、すぐに佇まいを直す。

女性や、その傍らを漂う少年も知らぬことだが。
もしも数ヶ月前までの彼だったらその髪に話題が及んだ途端、このような返答すらせずに話題を終わらせただろう。

だが今の青年はそのままにこやかに、凍っているのかいないのかの議論を眺め──。

──ほんのちょっと前に起きた、空気が罅割れる現象再び。

こんな短時間で二度も爆発させる才能の出現に、青年はそっと息を吐いた。

女性と、その剣から現れた光に目を向ける。

早速開始された、嵐のような説教を見て露骨に嫌そうな顔をするワハブ。

シェリィのほうへ顔を向け。

持て余している様子の腕を振ってみせる。

都合良いところだけ反応しているという体ではあるが、シェリィの提案には概ね賛成らしい。
そして、ワハブは手近に見えた店、軽食も可能なバーを指差した。

　少年にとって、女性が肩をすくめたり苦笑したりする様子が興味深かったようで、
　少し考えるような仕草をした後、ほんの僅かに笑みを浮かべた。
　

　
　少年は自身の左腕——殆ど金属で覆われている——を持ち上げ、
　動作を確かめるように、がしゃり、がしゃり、と何度か動かした。
　

女性にしては長身、気配にも隙のない人物を目に留めたところ、その人物と目が合って少々ばつが悪そうに苦笑しする。

相手が気を留めたのが自分の得物だと知り、若干いぶかしげな顔をした。

自分の特徴を的確に列挙されると苦笑気味に軽く肩をすくめた。

見せてくれと言われると、冗談めかしたもののなんの躊躇もなくそれを差し出す。
短いやりとりの中で、彼女が人の武器を粗末に扱ったり、蔑ろにするタイプではないと判断した。