ことの始まりは、間抜けな旅人から奪った一枚のコイン。


「そういえばそんなものがあったっけ」

黄金郷カダイエの話くらいは聞いたことがある。
小さい頃のおとぎ話として。
「何ですか？」
「黄金郷。世界に一組のマ…えーと…
12枚のコインを持った奴が守ってたエンブリオだよ」
「それがこの。すごいじゃないですか」
「何本気にしてんだ。ただの伝承だよ」

すき間から白く冷えた風が吹き込む狭い洞穴に、僅かな明かりの中で囁く二人だけの秘密のような話。
希少種の方が妙に興奮していて、
…あの男も、この鳥のように随分と馬鹿なロマンチストなのだなと思った。


どうせただの占いの道具だろうに。ここには暇人と変人しかいないのか。
レグルスは戸惑っていた。
あまりにも統一感のない顔ぶれ。御伽話のとおりのコイン。
冷静なままでいられなかったのは、心のどこかでこの伝承を信じていたからだろうか。
「見て下さい。今、コインが…」
「黙れ…」
囁いた声が僅かに震えていたのが誰かに覚られただろうか。
カカが呻いたが、いつもと同じ能天気さと
羽の温かさと匂いに少しだけ落ち着きを取り戻した。

目を閉じてはいけない。
大きな瞳を殊更大きく見開いて、オレは”その時”を待った。

更にりんごを取り出して、レグルスへ投げつけ。

そう言いながら、赤い髪の鬼人は両手を上げた。身振りで相手に敵意はないと伝えたいらしい。

それはそれは誇らしげに見える表情で。
獣は葉っぱに包んだ何かを鮮やかな翼の前に広げた。
大小とりどりのちいさな豆が、量だけなら腹にたまるくらいは収まっていた。

意味のある言葉はそれきりで、ぐるる、と喉をひとつ鳴らした。