（あー………、面倒くさい。
　あのカス男、往生際が悪いったらないわね。
　素直に騙されて棄てられていればいいものを、呪っていくなんて。
　だからモテないのよ、本当に顔だけ男なんだから）

肩にかかる髪を払うたび、後ろを振り向くたび、呼吸をするたび。
指先に、肩に、首元に、触れる色とりどりの花。
存在を感じる度にふっと表情を緩めて——一瞬歪めて、小さな舌打ちをする。

数か月前に弄んだ男が呪術師で、うっかり「首元から花が生える」呪いを受けた。
手折っても刻んでも生えてくる花。いっそ花屋にでもなってやろうかと思う程。
おまけに皮膚の下は根や茎が這っているものだから、包帯なしでは出歩けない。
極めつけは、あれだ。

『そのうち喋れなくなるからな！お前みたいな女じゃ、その呪いは解けねぇよ！』

ああ、思い出すたびにいらっとする。
勝手に呪うなら、勝手に解き方も教えていってくれ。
あの男、バナナの皮で転んで後頭部強打したり、豆腐の角で頭を打ってそのまま豆腐で窒息的な、くだらない死に方で死なないかな…と切に思う。
ともかく、①呪いが進むと喋れなくなる、②呪いの解き方は、自分が出来そうにないこと————やっぱりあの男、今度会ったら生かしておくものか。

書物を読んでも、尋ね歩いても、解呪方法についての情報は無く。
しかし途中、一揆のために異世界からたくさんの人が来ていることを知った。
異世界の人間なら——こちらの世界にない情報を持っているかもしれない。
足先は自然と、異世界の人々が降り立つという場所へ向かう。

（一揆に参加するとなると、それなりに強くないとね。
　怪我するのは嫌だし、私のためにきちんと身体を張ってくれそうな男——それがカッコ良ければ、尚良いんだけど——）

ちらちらとそれらしき人たちとすれ違う。
条件に合いそうな人物を物色していると——ふと目にとまったのは、野宿中らしき紫の髪の男。
しかし派手な髪に似合わず、かっちりした服を着込んでいて、まるで執事のようだ。

「あの」
「………はい？」

声をかけて、上げられた顔をじっと見つめる。
……イケメン…というよりは、——何だか同じような匂いがする。
軽そうな、いい加減そうな感じ。

（まあ、いいわ。身体つきは良いし、居ないよりマシでしょう。）

「——貴方は、異世界から来られた方ですね？ようこそ、メルンテーゼへ。こちらの世界は、いかがですか？」

とりあえず、ナンパしてみた。