猫の妖精を倒して、ほっとひといき。

そらを見上げて、両親に報告する。
とどかないって、わかるんだけど。

つい言いたくなるくらいには、襲ってくるいきものは、少なくないみたい。

遊ぼうっていった、おにいさん。

ぼくのみみ？に興味があるみたいな、おんなのこ。

ぼくらの長いみみは、ぼくらの特徴って、わかってたつもりだった。

森の中の動物たちは、あのみみを、持ってない。
でも……　ひとのかたちをしているのに、あのみみがないのは、やっぱりふしぎだった。

みんな、ぼくを見てる時は、こんな気持ちだったんだろうか。

ちょっとだけ、ぼくらの話をしよう。

モクロトラは、泉森（いずみもり）ってぼくらが呼ぶ森の中で暮らしてる。
名前はそのまんまで、中には大きな泉が湧いているんだ。
ぼくらはそこの水でできている。
飲水にも、生活にも、ここを頼ってるから。

とはいえ、泳げるひとは、ほとんど居ないんだけど。
これはぼくはふしぎに思ってるんだけど、泳ごうってひとは、あんまり居ないみたい。


ぼくらのみみは、みみだけど、手でもある。
思うとおりに動くし、結構力も強いんだよ。

生まれた時はすごく小さいけど、成長と一緒に長くなる。
母さまとか父さまは、まっすぐ伸ばせば、腰のあたりまである。
ぼくらくらいの歳だと、成長が早い子だと、肩くらいまである。
長老さまは、背も小さいから、足元よりもまだ長い。

みみでみみを塞ぐと、なんにも聞こえなくなるんだって。
喧嘩したあとの父さまは、よくこうやって、精神統一、してる。

みみはいろんなことに使うから、使うほど硬くなる。
表も裏もね。
硬いほど、経験の多いモクロトラってことになる。

（ぼくのは、フードだから。
　長くもならないし、硬い革を縫いこんでるけど、それ以上に硬くもならないんだ。
　ちょっとさみしいけど、仕方のない、こと。）

鍛えてれば、木々の間を飛び回るときに、みみで身体を支えることだってできちゃう。
母さまは自在に森を動き回れる、とっても強い人だ。
腕が４本あるみたいなもの、なんだって。

（余談だけど、母さまは父さまよりも強い。
　母さまがみみで殴ると、父さまだって吹っ飛ぶんだ。）


足はちょっと、うさぎという動物に似ているんだって。
ただ、みみほど強くはなくって、森の中で走り回るのが得意なほう、ってだけ。

兵士さん、かな。

すっごく……　ぴりぴり、してるみたい。

ぼくは、セキレワを掲げる。

爪とみみで戦うモクロトラにあって、例外の呪具にして、祭具。
ぼくらの足に似せた根本で地を叩けば、さあ、祭祀の始まりだ。

せかいは、まだまだ、刺激的だね。

じりじりと、背後から近づく気配がひとつ。