「こなくそおおぉぉぉ！！！」

兵士のうちの一人がニコレットを吹き飛ばす。
ニコレットは、強い。
私なんかとは比べられないくらい、強い力を持っている。
その彼女が、弾かれたそのままに宙を舞う。

地面に叩きつけられた彼女は、謝罪の言葉と共に、ふつりと動かない。
気を、失っている。
急いで魔力を変換するが、指先に集まった力は形を持つ前に霧散していく。

私の魔法は、傷を癒すこと、失われた気力を補うことができる。
できる、が、それは自我を持つ者にだけしか発揮されない。
正確に言うなら、できる。が、それは戦場では不可能なこと。

燃料を注ぐことはできるが、動くための最初の火付は難しい。
必要な力が、違う。
安全な場所で、細かい陣の制御をもってできること。
だから、まだ向かうものがいるこの場では、私は彼女に、何も、できない。

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……！」

届くことのない、自責と後悔を紡ぐことしか、私にはできなかった。

力の及ばない私が生き残る為に選んだ道が、これだったはず。
それさえ満足にできない私に、意味はあるのだろうか。


もっと早く、確実に、深いところまで。
その傷を治せたら。
いや、違う。
傷つけさせちゃいけないんだ。

足りない。

もっと、もっと。
私に、力を——

シセが僅かでも、反応を示してくれた事に安堵したようだ。
更に「急ぎではない」と答えられ、顔をほころばせた。

軽く自己紹介をすると、ハンチングを取り胸に当て、折り目正しく御辞儀をした。

御菓子と呟かれ、臙脂色の巾着袋を開いた。中からは、飴や焼菓子、個包装の小さな饅頭などが入っている。

言いながら、トランクから水筒を取り出した。

騎士、という言葉を聞き、振り向く。
騎士ではないぞ、と思いながら少女を見た。

菌は5匹に分裂しながら少女を見ている。

龍はあても無く市街を歩いていた。
昼過ぎくらいだろうか。
道行く人々は雑多であり、めいめいに午後の行動を開始しようとしている。

ふと、その喧騒の中、一人の女性が目に留まった。
彼女の背は小さく、まるで失った行き場を模索してもがいているようだ。

龍は気づいたら声を掛けている自分に気づいた。
はっとしたときには彼女はこちらに気づいて何事かと見つめているようだ。

ほとんど出任せである。
だが、事実、彼女の向かっている方角は、
龍の住む廃図書館の方向であり、周辺区画には廃墟が並んでいる。

治安がいい場所と言えないのは事実だった。
龍はなんとなく、決まりが悪そうに目線を逸らした。

女の返事に、男は満足気に頷いた。
顎先から外される鋒。軽く振るう先端から滴る紅の雫が、地面を彩って。

許諾の言葉は当然の如く受け取って、当然の如く命令を下す。
染み付いているのだろう。その挙動は、一切の淀みなく。

未だ心中が揺らいでいる少女に思考の暇を与えんとばかりに、急かす言葉。
人を連れてこいと、使えるものを集めろという命令。
言葉はあまりに簡素で、粗暴に過ぎる。嗚呼、だが——『求められている』。



——そうして連れてきた『二人』へと男が声を投げかけるのは、日が沈みかける間際であった。

青年は手を引かれながら、少女の姿をじっと見る。

心なしか、青年の顔が残念そうなものになった。
リボンのない人に付いていってもいいのかを考えていると
考え込み俯いた表情を勘違いしたのか少女がこちらを見ている。
何か言わねば、と思い口から出た言葉は

だった。

　なんか、応えが返ってきたのに驚いたように口元を隠しました。
ただ思った事を口に出してただけ、のような。わたし？
多少おびえたように視線を彷徨わせて……あれ、やっぱり自分しか居ない。

　手招きまでしていたのにこの体たらくでした。

　一度目のかわで自分の腕の皮をつまんで、違う違うとやって。
突如ぺたんと膝を落としました。膝立ちのまま足の間に左手を差し込んで
スカートを濡れないように上げつつ、ぱしゃぱしゃと右手で水を遊ばせました。
こっちの川だよ？とでも言いたいのでしょうか？　背丈の割には
裾から覗くふとももや腕に寄せられた胸は育っているように見受けられます。ええ、やたらと。