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ドキュメント-０１

　人工知能の研究というものは、現代の科学では限界のある分野である。
　それは思考能力の問題だとか、ＡＩ自体の精度の問題なのではなく、ココロという現象を科学的に細分化し、解明することが不可能故に限界があるのだと、私は考えている。
　ココロというものは、二元論として扱うならば形而上の存在であり、例えば人間の脳のシステムを完全解明したとて——実際それは不可能に近い。これも限界である理由の一つだ——それを再現することは不可能だろう、という説もある。
　いやいや、しかし。所詮人間などというものは、物質の寄り集まった分子の運動体その結晶に過ぎない。そういう者も数多い。そういった者達の中には、完全なる人工知能を作製するといった、見果てぬ夢を抱き生涯を終える者達も存在する。
　私の父は一時期、イギリスの『レイソゥ・クラブ』という機械の抱く知性を専門とした、科学者或いは哲学者達の集う研究の場に身を寄せていた。詳しいことは割愛させてもらうが、結果としてそのクラブの当時の専門家達の心血を賭しても、完全なる人工知能の作製は不可能だったのである。
　あるものは言う、完全なる人工知能など未来永劫できやしないと。
　あるものは言う、科学の進歩の先に、人間の叡智の末に人工知能は必ず成ると。
　あるものは言う、完璧な人工知能が完成した暁には、人間社会は乗っ取られ我々人類は駆逐され——これは際物の部類だ。
　ココロ。
　確かにそれを完全に再現することは、現在の科学技術では難問が多すぎる。
　自然言語の理解、フレーム問題、コンピュータ・ビジョン、人間視野の完全再現、そしてチューリングテスト……。これらの問題が、地獄の門番の如く我々思案する人間の前に立ち塞がり、あるものは炎に焼かれ無残にも喰われる事になる。
　ココロ。
　それは果たして何なのか？
　イシキ。
　それは本当に存在するものなのか？
　イノチ。
　それを創れるのは、大いなる創造主だけなのか？
　神への挑戦。それは魅力的な言葉に聞こえる。神への冒涜。ますます蠱惑的ではないか。
　充分だ。
　わたしが行動を起こす動機としては、お誂え向きであり、祝着の極みであるといえる。
　しかし、問題は山積みだ。数々の、あるいは人間の歴史の中で未だ日の目を見る事のない、完全なる人工知能。
　私に創ることが出来るのか？
　ココロ……。
　それはどうすれば、再現できるのか。
　私のスタート地点は、そこから始まったのだ。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2010年　11/09　我が書斎にて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フィリップ・ボウマン




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「ＡＩ【ADAMALICE】正常に作動しています」

手をひらひらと振りながら、アエレアのもとに近づく
その手には水筒とカップ二つ。

そういいながらカップのひとつに水を注ぎ、一口。

そういいながら、もうひとつのカップに水を注いで、アエレアに差し出す。

川沿いを歩いていると…貴方はあるものを見つけてしまいます。
……それは、どう見ても人間の上半身。

川の流れに逆らうように、その流れをかき分けるように。
それは、小川の中ほどに、確かに在りました。

それはとてもとても異様な光景。
水面から上半身だけを出して、静かにリュートを掻き鳴らし、
それが当たり前だと言わんばかりの自然さで、歌を歌う男。

その視線、そしてその歌は、貴方に向けられているように感じられるかも知れません。