■閑話休題
- to return to our subject


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※ENo.1597 ジャック が ENo.1423 チセ をナンパしたことから始まった
　第3回更新時の BLACK N' JACK vs スノリト 練習試合に纏わる小話です。
　次回一時的にパーティを統合するため、それに準じた内容になっています。

　日記中ENo.1423 チセさん、ENo.612 アールさん をお借りしております。

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些細なことから始まった少女を巡るその勝負は、割合あっさりと決着がついた。


最後にエンブリオの放った光が 晴れた空高く吸い込まれてゆく。
少年と少女は地に膝をついて、一方で男二人はそんな様子を勝ち誇った顔で見下ろした。


「なん……だと……？」
「ハッハァ！！悪いな、勝ちはいただきだ！！
けどまぁ、頑張ったほうだと思うぜ。おつかれさん！」


明らかに人を小馬鹿にした金髪の男の物言いに、少年はぎりりと奥歯を噛み締めて睨みつけた。
悔しさを顕にするその様に、男は尚のこと愉しげにカラカラと笑う。


「ま、勝負は勝負だ。約束通りレディをもらおうじゃねぇか。
心配すんなって、しっかり天国見せてやっからよ！！あーっはっはっはっは！！」


周囲に轟くほどの大声に、少女は不安げな表情を浮かべる。
憂いを帯びた瞳を向けられて、もうひとりの黒い男はゆるく微笑んだ。


「大丈夫、そう悪いようにはしないよ。……たぶん」


そう言って男は緩慢な所作で歩み寄ると、口元には笑みを湛えたまま、
しかし薄青の双眸には嘲りの色を含んで、少年少女の顔をおかしそうに覗き込む。


「…なあ、俺達が《良い大人》で良かったな？
──これが強盗か何かだったら、下手すりゃ君ら死んでたぜ」


思わず顔を見合わせる二人を眺めてもう一笑いしてから、
そこで漸く男は自らの名を名乗った。





「まあ少しの間、よろしく。俺はブラック、向こうはジャックだ」








──それから数刻の後。

穏やかな風の吹き渡る平原に、物騒がしくその歩みを進める一団があった。
少女チセの肩を抱き寄せながら上機嫌で先頭を行くのはジャック。
その後ろを少年アールが山のような荷物を背負わされてげんなりとついて行き、
一番最後をブラックがゆったりと歩いている。


「おらおらァ！キリキリ歩けよォ！！そぉんなちんたら歩いてたら日が暮れっちまうぞ！あっはっはっはっは！！！！」
「あ、アールさん…」


馬鹿笑いをするジャックの隣で心配そうな表情を浮かべるチセに、
大丈夫だと頷いて見せるアールだが、その顔には脂汗が滲み、脚は傍目にも判るほど震えている。


「くっそ……！なんっで、こんなに！　おまえら、荷物が、多いんだ…よッ！！」
「あぁ？少なかったらペナルティになんねーだろーが。なあ？」


ぬるい罰では罰ゲームにならない、というよくわからない主張によって
アールが背負う荷物の中には、ありとあらゆる『どうでもいいもの』が詰め込まれた。
子羊一頭くらいなら丸々煮込めそうな巨大な鉄鍋。何日分あるのかも判らない大量の食料
(しかも重量のある根菜の姿がやたらと目立つ)、果てはトレーニング用のダンベルや
日曜大工の工具、小さな金庫といったものまであって、最早何がなんだか分からない。
あまりにも理不尽な仕打ちに、アールはついに天を仰いで叫び声をあげた。


「ちっくしょー！！お前らマジで何なんだ！！
あとお前！でっかいおっさん！チセに馴れ馴れしく触ってんじゃねー！！」
「はァああ？か弱いレディをこうして…エスコートしてるだけじゃねぇか」


そう言うとジャックは見せつけるようにチセの肩から手を滑らせ、その細い腰をぐっと抱き寄せた。
その行動にチセが「きゃっ」と小さく声を漏らすのと、アールが「ぎゃッ！」と大声を上げたのはほぼ同時だった。


「ちちち、ち、近けーんだよ！！信じらんねー！有り得ねー！チセから離れろ！！！」


顔を真っ赤にし、荷物を景気よくガシャガシャと鳴らしながら地団駄を踏むアールを呆れ顔で見ていたジャックだが、
その様子からあることに気付いたのか、ニヤリと実に意地の悪い笑みを浮かべる。


「…ハッハーン！さてはお前、ドーテーだな？」
「！？！？どっ、どどっ、ドウテ…！？　な、な、何ッ　何言って…！！！！」
「今時よぉ、たかがこの程度でよぉ！赤くなるとかどんだけだっつーの！ギャハハハハ！！」
「うるっせーーー！！いいから離れろって言ってんだろおっさん！！」
「おっさんだぁ？躾のなってねぇガキだぜ。こりゃあドーテーでもおかしくねぇわなぁ？アーッハッハッハ！！！」
「はは、この調子ならまだまだ歩けそうだな？日が暮れるまでにサクサク行くぞー」
「ほんともう何なんだよお前ら！？！？」


ただでさえ二人だけでも喧しいところにブラックが時折思い出したように茶々を入れるので、
アールの憤激は時間と共に増すばかりだ。心なしどころか、はっきりとその顔には疲労が浮き出ている。
ぎゃあぎゃあと騒がしい男達に囲まれ、チセはこっそりと溜息を吐いた。





──そんなやり取りがしばらく続いた後。
チセの何度目かの溜息を視界に捉えたジャックは、未だ騒いでいるアールをブラックに押し付けると、
隣に並ぶその小さな少女の顔を覗き込んだ。


「どうしたレディ、疲れたのか？ 疲れたら抱いて運んでやるからいつでも言ってくれよな」
「え、抱…！？い、 いえ……」


純朴で色恋沙汰に疎いチセにとって、ジャックの軟派な態度は戸惑いの対象でしかないらしい。
わたわたと顔を赤くして慌てて見せるが、それもまた初心で可愛いと言われてしまい、
いよいよ困りきったように眉尻を下げる。

気を落ち着かせるためにひとつ大きく息を吐くと、
チセはうんと首を伸ばして、既に前方を見据えている大柄なジャックを見上げた。


「……あの、今から何をしに行くんですか？」
「あー…ほら、アレだ。なんつったっけか…　エンブ… エンブロー……？」
「エンブリオ？」
「あー、そーそー！それそれ。それを捕まえに行くとかって言ってたっけな？
はっは、レディは可愛いだけじゃなくて頭もいいんだな！！」
「きゃ…！？」


からりと笑って小さな体をひょいと抱き上げれば、可愛らしい小さな悲鳴……と共に、
後方から断末魔にも似た悲鳴に続いて「こらテメェ離れろ馬鹿！！」という声が飛んでくるが、当然ながらそれは無視される。
チセはと言えば、身体を急に横抱きにされ、足が宙にぶらぶらと浮いている事や、
背や膝裏に回された太い腕、今まで以上に近くなった顔に、どうしたらいいものかとほんの少し身を捩る。
だが、まだ何やら叫んでいるアールの方をちらちらと気にしつつも、先ほどのジャックの発言に首を傾げてみせた。


「あ、あのっ…エンブリオを集めていらっしゃるという事は……あなたたちも、一揆に……？」
「んあ？イッキぃ？何だそりゃ」


聞きなれない言葉にジャックは一瞬眉を顰め、そして一拍後にニヤリと笑う。


「俺達はよ、ちょーっとばかしやりてえコトがあってな。それに役立つ道具が欲しいってだけだぜ」
「道具……ですか」
「あいつら便利だしよ。色んな手段に使えるだろ？」


エンブリオを道具だと言い切るジャックの言葉は、チセにはなんとも理解し難いもので
あまり良い心象を与えるものではなかった。
けれどジャックはそんなチセの反応を見て、逆に不思議そうな顔で「変なこと言ったか？」と首を傾げる。

エンブリオに対する認識や扱いは、出身などによって大きく異なるのが通例だが
二人の間には特に大きな隔たりがあるようだった。
ジャックの返答に少々憂いた表情をチセは浮かべたが、当のジャックはあまり気にしたような様子もなく
いつもの軽薄な笑みを浮かべて腕の中のチセを覗き込んだ。


「で？レディは何で旅してんだ？遊びたい盛りなんじゃねーの？」


そう問いかければ少女を縁取る憂いの色が、ほんの少しだけ強くなる。
きゅっと口元を引き締めて、手に触れていた服を握り締めた。


「……私には、やらねばならない事があるんです」


固い決意を匂わすような、ともすればまるで自分に言い聞かせているような──そんな声音でチセは答える。
それを聞いたジャックは「ふぅん」と一言漏らすと、チセをゆっくりと地面へと降ろした。
その行動に目をぱちくりと瞬かせてチセはジャックを見上げる。
ジャックはほんの少しだけ面倒くさそうな表情を浮かべて、また口を開いた。


「で？その『やらねばならない』ってのは、レディが無理してまでやる価値のあることなのか？」
「……それが、私のやりたい事でもありますから」


どことなく思いつめたような口ぶりに、ジャックはふんと鼻を鳴らした。
……理解できない、と思っているのがあからさまに伝わってくる。


「随分と面倒なこったな」
「……」
「俺はそーいうめんどくせぇ事は嫌いだけどよ」


一拍置いいて、ニカッと音が聞こえるかのような笑顔を浮かべて、またチセの顔を覗き込む。


「そんな面倒事でも必死にやってるレディは素敵だぜ？」


そう言って軽いウィンクをひとつ。
思わぬ口説き文句と行動に、またも戸惑ったような表情を浮かべるチセに向かってニッと笑って見せる。
そうしてそのまま小さな子供にするように、頭をわしゃわしゃと撫でた。


「きゃ…っ！」
「俺たちといる時ぐらいは忘れちまいな。気軽にいこうぜ、あーっはっはっはっは！！」


豪快な笑い声と頭を撫でる大きく熱い手に、
チセは少しばかり呆気にとられながらも、くすりと小さく笑った。


ブラック(ENo.1596)の日記に続きます。
http://ikki.x0.com/r/k/k1596.html#DIARY

突然目の前で起きた出来事に絶叫すると、割り込むように金髪の男の前に立ちはだかる。
随分と愉快な動きをして、かなり動揺している。
真っ赤になった顔を今度は真っ青にすると、

早口でまくしたてた。
目の前にすると男はずいぶんと迫力があったが、身を乗り出すと噛みつくようにアールはぎゃんぎゃんと吠えた。

赤い獣にそう声をかけたあと、ハールに向かってこっそりと囁く。

悪気なくカラカラと笑いながら男は対峙する獣に話しかける。

そう言うと男はにんまりと笑いながら、拳に愛用の得物を嵌め込んだ。

どうにも納得がいかない表情だ。