「クレーさん、朝ごはんできましたよ。おきてください」

今日も朝はシルウィアに起こされてしまった。このところ順調にエンブリオとの契約が進み、研究材料が増えた反面、研究以外のことは任せっぱなしだった。

シルウィアは、他のエンブリオたちと比べていくらかお姉さんといった感じで、よく他の子達の面倒をみてくれている。食事の準備もこのところずっとシルウィアにまかせっぱなしだ。申し訳ない反面、たいへん助かっている。

というようなことをシルウィアに伝えると、彼女は少し照れくさそうにこう答えた。

「わたし、最近よく同じような夢をみるんです。その中でわたしは普通の人間で、どこにでもいるような農家の10人姉妹の次女で、妹たちの面倒をずっとみて、家事もこなしているんです。そんな、どこにでもあるような、普通の家族の夢をなぜだかずっとみているのです。それで、夢のなかでできたことを、できるかなとおもって、やっているだけなんですよ」
「だから、ソラメロたちの面倒をみていても、妹の面倒をみているみたいで、楽しいですよ。あ、そうなると、クレーさんは長女でしょうか」

などというのだった。きょうみぶかい話だ。彼女は最近生まれたばかりのエンブリオだというけれど、もしかすると、本当に農家の次女がどこかに存在していて、彼女と何らかの関連性があるのかもしれない。考えられるのは、農家の次女の生まれ変わりとか、意識の具現化とか、飼っていたなまずが変化したとかだろうか。可能性はいくらでもあるのだから、実在するものだと考えたほうが楽しいだろう。

僕は長女に相当するということだから、夢のなかの長女がどのような人物なのか尋ねてみた。

「そうですね、姉さんはあまり家の仕事は手伝ってくれないんですよ。肥料や農法を改良してたんいめんせきあたりの収穫量を増やすんだ、といって、毎日実験ばかりしているんです。でも寝落ちするぐらい夜遅くまで実験しているわりに、結果は失敗ばかりで・・・。あ、えっと、でも、いざというときはたよりになる人なんですよ」

しどろもどろな姉へのフォローは、シルウィアのやさしさなのだろうけれど、かえって心に棘が刺さった気がする。ものすごく夢のなかの姉への親近感が湧くとともに、少なくとも明日こそはシルウィアには起こされないようにしようと思った。

追記：
先日、近しい方に僕の肖像画をたいへん美麗に描いていただいた。嬉しい。ソラメロに見せたら、「うわー、肖像画は、すごい美人だねえ」と僕の顔と絵を見比べなからいうのでシメておいた。妖精の戯言は無視して、旅の宝物にしよう。

ですが、そのガラス質の異形の耳と暗澹とした魔力は、到底人間のものとは思えません。
どちらかといえば、彼女自身が魔法生物のようにも見えます。
よく観察してみれば、いろいろと分かることがあるかもしれません。

くすくすと笑って、もう一度、『ごめんなさい』と謝りました。

ちょっとすねたように、目をそらして見せます。