猫の貴族と試す人達

　アニマのアールと出会った次の日、ぼくたちは荷物を畳んだ。
　実際にはカバンに詰めるだけ詰めたんだけれども。
　男爵は僕より荷物を持っているはずなのに小さなトランクに収まっている。
　ぼくの荷物は大きなリュックに溢れそうだ。
　きっと男爵のトランクは違う世界につながっているのだと思う。
　でも、男爵に聴いてみたら。それができるのは未来のロボットと偏屈な魔法使いだけだと言った。誰と誰だろう。





　「どこに向かうの」とぼくは聞いた。
　「『D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?』」
　「なんなの、それ」
　「少年は絵を知らないか」
　「絵？」
　「Gauguin」アールは呟く。
　「ごーぎゃん？」
　「画家だ」
　「知らないや」
　「知ってても知らなくてもどちらでも構わない。ただ機会があれば見ておくといい。知る、知らないより意味のある体験だ」
　「ふーん」
　ぼくはそんな小難しい名前の絵より、きっと『ひまわり』の絵に囲まれている方が素敵だと思う。
　影がないぐらいに光が溢れていたら素敵だと思う。





　男爵が向かった場所は、別の町のとある広場だった。
　そこには沢山の人が集まっている。
　入り口に続く列には沢山の人（ぼくの住んでいた港町よりいろんな人が）が並んでいた。
　時々中からは荒っぽい声が聞こえる。『イヤーッ』とか『グワーッ』とか一体何をしているのだろう。
　夕方ごろになってようやくぼくらの番になる。
　そこではルリアンナと呼ばれた女の子と、ラルフというこわそうなおじさんが立っていた。
　ルリアンナは「イッキニカセイしてくれるのね？」と聞いたら、男爵はそうだと答えた。
　「一気呵成？」
　「違う。一揆、つまり蜂起だ」
　この前聞いたやつだ。つまり、男爵は本当に反乱に参加するんだ。
　じゃあ、ラルフと戦ってね。とルリアンナは言う。
　「あからさまに何かしてそうじゃないか・・・・・そろそろ倒れそうだぞ俺・・・。」
　そんなことを言うこのおじさんは、倒れそうな気がしない。
　矢をたくさん当てても立っていそうだ。
　「そんなことはないぞ小僧……」ラルフが呆れた顔で言った。
　「まあ、少年はここで見ておきたまえ、行くぞアール」
　男爵はそう言うと革の鞭を取り出し、ラルフの前に立った。