ここに我輩ことニャンダモン様の記録を残す。
俗に言う“ヒトもすなる日記というものを猫もしてみんとてするなり”といったところである

《小川に滴る食欲の滝》
太陽が沈むころ。夕食の時間にも関わらず、我輩は走っていた。
安全を求めてスタコラサッサと逃げていたのだ。

まさにおっしゃる通りで、ヤツはあまりにも強かったのだ。
その肉体は、我輩の牙や爪がまるで通用せず、襲い来る攻撃は我輩を八つ裂きにせんとする。
そんな野蛮な生き物に我輩が勝てるわけもなく、退却を余儀なくされたのだ。
スタコラサッサと逃げる勢いに身を任せ、砂地から離れる。

辿りついた先は、小川。
静かに流れるその川は、美しい輝きを放っている。
澄んだ空気は、砂まみれの身体を洗い流すようだった。

美しい輝きに吸い寄せらるのか、多くの生物も集まっている。
王城前にいた一揆衆どもの姿も、ちらほら見える。どうやら人気のスポットのようだ。

お腹が空腹を訴える。そういえば、夕食を食べていない。
川辺でバーベキューと洒落こむことにする。幸い、材料は川を泳いでいる。
夕食の材料を調達するべくウロついていると、ちょうどいい獲物に遭遇する。
お魚が2匹、丸々と肥えたケモノが2匹。今日のディナーは豪勢だ。

返事は無い、ざまあみろ。

セイレーンと言われたお魚は、上半身がヒトの女性のようにも見える。おとぎ話に出てくるような美しい姿であった。
しかし、我輩にとってはお魚に違いなく、食欲を満たす対象でしかないのである。お魚のソテーの思いを馳せ、涎が滴り落ちる。

構うものか、喰ってやれ。エンブリオのソテーも悪くない。滴り続ける涎が、新たな川を作る。

叫びに応えるように、2匹のお魚どもは川へと飛び込み、川の上流へと泳いでいく。
我輩のディナーが上流へと流れていく。なんとも忌々しき事態だ。

お魚のソテーを食べたい一心で、お魚どもの後を追う。
しかし、その思いは分厚い脂肪にぶち当たる。肥えたケモノ、セイウチどもが行く手を阻んでいるのだ。
まことに残念ながら、我輩は脂身は好きでないのだ。帰れ。