竹林である。

　謎の竹林。
　ある日、忽然と其処に現れ、迷い込むことでのみ踏み入ることができる。
　一度でも入れば、その後はいつなんときでも、願うだけで出入りできるようになる。

　聳える竹を両脇に、石畳の路を進んだ深部、開けた景色の中にぽつんと佇む一軒の古めかしい屋敷。
　ある者には懐かしく、ある者には異国情緒に満ちて見えるという。
　周辺には、竹垣に囲まれた庭、畑、その他様々なものが見てとれる。
　奥の間にだけは立ち入りできぬ空間が広がっているが、それ以外の場所への往来と利用には何の苦もない。

　——出現の時、場所、遭遇する相手。
　それらには、何の規則性もない。
　故知であろうが、なかろうが。
　何処に居ようが、居まいが。
　……目の前に、この竹林が現れたならば。
　誰彼構わず、出会い、迷い込むことができる。
　——これを目にする者は、誰であっても。

　ひとときの憩いに。
　仮の棲家として。
　幾らかの気配が、竹に囲まれた隠れ家を訪れる……

　……余談。
　設立者が、一揆中の拠点用に迷いの森的な隠れ家の生成を試み、呪文(ソースコード)の記述を一部間違え、木が竹になってしまったのが真相らしい。
　生成者当人以外、誰でも入れるようになっているのも、恐らくは、何か記述が間違っていたせいであろう……

-----
【photo credit】
　[photolibrary] http://www.photolibrary.jp/ より
　作品名≪竹林の小径ライトアップ≫

急に騒がしくなった事に何事かと目を見開き、その言動を黙って見ていた。後、部屋の奥へと行ったかと思うと、ハノと名乗った青年に一本の牛乳瓶を手にして

＞ハノさん

　そう言うと、トカゲはヒョウタンの水筒を差し出した。

新たな来訪者の動揺する姿についついつられて慌てた調子で、

そう言いながら屋敷の勝手口らしき方向へと走り去る。

しばしの後、御盆に茶を入れたポットや小さなカップ、
その必要分の所在が分からず間に合わせで取ってきたらしい汁椀などを載せて戻ってきた。

お茶を欲するであろう何人かの分を先に注ぎながら、
彼女としては純然たる気遣いのつもりで、「牛乳もありますよ」と二度目の言葉を発した。