大した事無いな、ガリバルディア

膝をついた自分に投げかけられた言葉が、いつの日か聞いた言葉を思い出させた。
それは我が師、マハヴィルがガリバルディアを引退した、あの日聞いたものと同じものだった。
もう11年も前になるあの日の言葉を、自分はまだ忘れられずにいる——


ジャドゥーラに住む男児は、10歳になるとガリバルディアの元へと赴き、適性を見定められる。
素養ありとされた者は、2年の猶予ののちガリバルディアの庵に住み込むこととなり、その知識や技術の教育を受ける。
何によって素養ありとするかは各代のガリバルディアによって違うため、世代ごとに毛色の違う特徴がある。
修行中のガリバルディアは20歳を以って正式に新たなガリバルディアとして認められる。
先代はそのまま数年ほど一緒にガリバルディアの職務をこなした後、弟子が30歳を迎える前後あたりで引退する。
引退した先代は、里へと戻り穏やかに暮らすものがほとんどである。

我が師マハヴィルは、ガリバルディアとしてはかなり異色の人物だった。
自分を弟子にとったのも40歳を過ぎてからとかなり遅く、逆に引退するのは自分が正式にガリバルディアになるやすぐと、極端だった。

「こんな薄暗い森にずっと篭ってねえで、俺は外の世界が見たいんだよ。」

口癖のようにそんなことを言っていた師匠は、その言葉を実行するかのように、引退後ジャドゥーラを去りどこかへと旅立った。
しかしジャドゥーラを去る日、彼はガリバルディアの庵に訪ねてきて最後の稽古をつけてやろうと言い出した。
結局全く歯が立たず、膝をついた状態で「最後まで一度も勝つことができなかったな」と思っていたところに、師匠は言ったのだった。


大した事無いな、ガリバルディア


我が師の放ったその言葉の真意を、自分はまだわかりかねている。

　　　　　　肩をぽんと叩くと、前に出て先に歩き出した。