tie cadaie -1-


それはとても古いものであることを除けば、どこにでも売っているものと変わらない、そんなコインだった。
父から譲られた時はそれが本当に意味のあるもだとは思いもよらず、ぞんざいな扱いをしたりしてしまったけれど。
それがまさか、こんなものを呼び出してしまうなんて。
その時、僕はとても驚いて……。
つい、笑みを漏らしてしまっていた。


Razin家に伝わる台座は、僕とあの人を導いていった。
最初はかすかな光だったけれど、一つ、また一つとコインが嵌まる度に強く輝きを増して。
十二個のコインと十二人の運び手が揃った時、それは現れた。


最初は、点。
どんな闇よりも暗いそれは、じわりじわりと地面へと広がりを見せる。
次に現れたのは目。
覗いているのか、それとも覗かれているのか。
そのオレンジの光はこちらの全てを見透かすように僕を貫いた。


しばらくすると、それは全容を現す。
塔。屋根。時計台。煙突。風車。車輪。
繁る木々。岩肌。鉱物。草花。苔。
十三の目。角。脚。羽。尾。
人工物とも自然物とも動物とも言えぬそれは、まるでガラクタを集めて一つにくっつけたような、そんなめちゃくちゃなバランスで成り立っていた。


「マァムブ……」


誰かがそんな呟きを漏らす。
それが、この物体の名前だった。
すぐに行動を始めるもの、しばし呆気に取られるもの、自分の中に何かの変化を感じるもの。
反応はそれぞれ違えども、全員が何かの予感を感じていたのかもしれない。


それは、始まりと終焉の予感。

馴れあう気はないとでも言いたげな態度だ。

と書かれたボードをもったままとびあがりました。

と書かれたボードをもったまましゃがみました。

と書かれたボードをもったままこくりとうなずきました。

たっぷりまよったあと、しゃがんだままこまったようなかおで見あげています。

二人のやりとりを聞いて、少しほっとしたように微笑みます。

人形の少女が好きになっていたアムルは『持ち主ですか？』とは尋ねられなかったぐらいなので、
二人の関係が思ったよりも良好なもので、安心したようです。

ぶらんぶらんと揺れるさまを、落ち着かずに目で追いながら。

ちょっと申し訳なさそうに、肩を小さくします。
外の世界のものが、この世界の問題にふれていることを、あまりいいことではないと考えているようです。

王城前。一人でいるだろう貴方のそばに、黒尽くめの女がやって来る。

藍色の小さな布袋を渡す。

呼び止めようとする前に、青年は去って行ってしまった。
仕方が無く隠れていた少女へと振り返る。

-横槍が入る

聞こえた声に僅かに首を傾げ、足下に目をやる。
そこにあった——「居た」人形が視界に入った瞬間、目を驚愕に見開いて。

ドールと呼ばれるエンブリオの存在を知らない訳でもないだろうに、余程興奮しているのかやたらきらきらした目で人形を見つめながら、彼女の周りを落ち着かなさげにウロウロと歩き回る。と、そこでようやく質問をされていたことに思い当たり。

と、抱き上げられた人形を追って、視線が上へと移動する。ちょうど正面あたりを見るかたちになり、人形を抱き上げた少年——男装をした彼女を見て、無知なラドアールは即座にそう断じた——と視線がかち合う。

相手を見、それからちらりと人形に目をやる。やはり気になるのだ。

ふと背後に回り込まれ、小さく驚くのも一瞬。
すぐに後をついてきた者の姿を認めた。

言葉を止めくるりと振り返り、
そこにいる一際小さな少女の視線に合わせ、身を屈める。

言いながら、悪戯に笑いかけた。

突然のことに目を瞬かせると、挨拶と思しき言葉をオウム返しに返す。
すると少女は踊るように軽やかに、背後に回りこんでいた。

何が起こったのかまるで理解できない。
分かることと言えば、この少女は人間ではないだろうということだけ。

困惑していると続いて青年がやって来た。
どうやら人形を捜しているらしいが、疲れているのか、あるいは焦っているのか、その表情を歪めていた。

人形など見ただろうか？
今日一日の記憶を辿っても、それと思しき物を見たきおく　　は

覗きこんできた青い髪のエルフの眼をを見つめ返しながら赤い髪の鬼は言った。

二転三転する話に苛立つも、ぺっ！と唾を吐き捨て気持ちを落ち着かせる。

クリスティーナが指差すところをじっと見る。

（女性だと知ってから若干態度が柔らかくなったように思う）

何か勘違いしているようだ。

唐突に現れた人形のテンションの高さに、怪訝なものを向ける。
反対にまっすぐに興味を示した妖精を、首根っこではなく翅を掴んで制した。

迷惑はかけられていない、と首を振る。それから大道芸はしないとも。

そうして、ケット・シーとの契約を、手の中のアイテムでこなしてみせた。
この程度なら造作も無いといったふうだが、どこか反応を探るような表情で、右手を差し出す。

ぽんぽん、と手を払って仲間の様子を見てまわる……。

——リレッタの周囲を赤いエンブリオが駆け回る……。