「それで？ お前らどこまで行ったんだ？」

禿頭の男がにやけ顔で隣の精悍な顔つきをした青年に尋ねる、
先ほどまでの政事や戦闘の連携等といった真面目な話から一転して下世話な話題に、
青年は困惑してもごもごと口ごもる。

「既にCまで行ったわ」

「ちょ…っ！」

代わりに青年の傍で腕組をしていた美しい金髪を肩下まで伸ばした女が答える、
淡々とした口調ではあったが僅かに口角が上がっていた。

頬を赤らめ、若々しい黒髪を掻く青年の背を、禿頭の男が下品な顔でやるじゃねぇかと叩き
それから？　と更に詰め寄る。

「既にプロポーズも受けたし」

「おお！」

口角が更に上がり、既ににやけ顔と言っていいほどの表情を浮かべる

「既に指輪ももらったの」

「おお！！」

しゃなりと女性にしては少々無骨な左手を見せびらかす

「既に式の日にちも決まっているわ」

「おお！！！」

「今月の末ッ！」

「おおおおおおおお！！！」

最後にふんすと得意げに鼻を鳴らすと、女は少し頬を染め、満ち足りた顔で青年の方を見た
青年の方もますます顔を赤らめると優しく、ばか　とだけ呟き女に視線を送り返す。

二人の熱い視線が交わり、辺りに甘酸っぱい空気が充満する、
そんな空気に耐えられなくなったのか、禿頭の男がひやかし気味にひゅうと口笛を吹いた。

「全く、貴様らは馬鹿馬鹿しい話を」

黒い兜と鎧に身を包んだ男が呆れ気味に呟く、
彼は三人から少し離れた位置で城門の方を見つめていた。

彼等は王に仕える兵士である、
王の暴虐で各地で一揆と言う名の反乱が起きても、
王には何か考えがあるのだろうと信じ、変わらず付き従ってきた。

一揆勢の侵攻が本格化してきた頃から広庭の守護と言う命を王から仰せつかり
人の背程の小さな丘に陣取って、今日まで代わる代わるここで見張りを続けていたのであった。

「ははは…すまない、見張り代わるよ」

まだ頬の火照りが取れていない青年が鎧の男に歩み寄るが、鎧の男はそれを指で制した、
鎧の男は面甲を上げて遠眼鏡を覗いていた。
首を傾げる三人に鎧の男は小さく伝えた

「侵入者だ、馬鹿が来たぞ。」

「なんだと！？」

禿頭の男が慌てて自分の遠眼鏡を覗く。
四人全員が一気に殺気立つ、この時期に城門を抜けて侵入してくるものは一揆勢に他ならない、
そして一揆勢と相対すれば戦闘は避けられないと言う事は四人とも良く分かっていた。

しかし、様子がおかしい。

「なんだぁありゃぁ？」

禿頭の男が思わず呟く。

遠眼鏡に映る侵入者は四人、その中で前に立つ二人が異様な雰囲気を醸し出していた、
一人は全身"白骨化"していたし、もう一人は"背中に羽"を生やし"頭に光の輪"を浮かべている。

「あれは…一揆勢……なのか？」

異様すぎる風体に青年は戸惑いを隠せない。

「頭のおかしいただの仮装野郎じゃねぇのか？」

「違うわね、四人とも武器とエンブリオを従えてるし、一揆勢よ」

禿頭の男と金髪の女も遠眼鏡を覗いてそれぞれの感想を述べる。

「一揆のムシケラ共なら戦わなければならないし」
「仮に頭のイカれたただの仮装野郎だとしても、武器を持って城へ向かっているののなら止めなければならない」

かしゃりと、鎧の男が面甲を下ろした

「貴様ら、鎧を着て戦闘体制を整えろ。」
「我等が王の為、馬鹿は間引かねばならんな。」







あの惨劇の後狂骨は、血濡れた民家に実に個性的な三人を仲間として引き摺り込んだ。

炎を操り、火竜の子であると自称する　ハーカ
氷と巨大な槌で敵を粉砕する天使　マリア
個性的すぎる面々に若干気を病みながらも孤軍奮闘を続ける青年　鹿矢

その三人と色々揉めながらも(主に狂骨が喧嘩を売って)狂骨は広庭へと侵攻していた。

途中襲いかかってきたエンブリオ達を蹴散らして、
暫くは粛々と広庭を進んでいたのだが、
また何か一悶着あったのか、狂骨の雄叫びが広庭に響き渡る

「そ う か そ う か 鹿 矢 そ ん な に ぶ ち 殺 さ れ て ぇ か ぁ ぁ ぁ ぁ ！」

蛇が噛み付くように伸びた狂骨の白い左腕が、鹿矢の首根っこを捉えて持ち上げた、
ハーカとマリアはまた始まったか、と言わんばかりの視線を送る

「こ の ま ま 絞 め 殺 し て や ろ う か ？ そ れ と も 三 枚 卸 し が お 好 み か ？ あ ぁ ぁ ん ？」

気道を潰さない形で掴み上げられているが、その分首に強い負担がかかり、鹿矢の首骨が悲鳴を上げる。
なんとか逃れようともがくが、拘束は固く、歯が立たない。

そんな"必死"なじゃれあいをする二人から、きまぐれに視線を移したハーカの目は四つの黒い影を捉えて

「ん。」

小さく声を漏らす

その声で自分達"以外"の存在に気づいた鹿矢は骨の注意を逸らす為なのか、
軋む喉首に鞭打ち声を出した

「狂骨さん、あっちに誰かいますよ！」

「あ ぁ ん ？」

ぱっと手を離し振り返る、どさりと割と大きな音を立てて鹿矢が落ちたが、
狂骨は気にする素振りも見せない。

振り返った先には兵士が四人、横に並んで狂骨達を見据えていた、
全身黒い鎧に包まれていてその表情は読めない。

「ふふ、来たか馬鹿どもめ・・・」

中央右側に立つ兵士が武器を構えて言う。

ハーカとマリアは既に戦闘の体制に入っている、
狂骨も刀を構えてからひゃひゃひゃと少し控えめに笑った。

「よ お て め ぇ 等 は "あっち側" の 人 間 だ な　　丁 度 良 い ち ぃ と 聞 き て ぇ 事 が あ る ん だ 」

「戦 り あ う 前 に 教 え て く れ る と 手 間 が 省 け て 助 か る ん だ が ど う ...」

「黙れッ！！！」

先ほど声を発した兵士の声が、狂骨の言葉を遮った。

狂骨は暫く口を開いたままだったが、やがてかたかたと体が震えだした

「即刻立ち去るがいい！世界に害をなす虫けらめッ！！」

剣を構えて黒い稲妻のように突進する兵士達、

しかし

う ひゃ ひゃ ひゃ ひゃ ひゃ ひゃ

怯む

鼓膜を劈く気の狂った、気の狂いそうな笑い声に

その笑い声はすぐに鳴りを潜め


代わりに地獄の息吹のような声が響き渡った


「　よ　ほ　ど　墓　石　が　恋　し　い　ら　し　い　な　あ　ぁ　？　」


戦闘が始まる


「僕は平和主義なんですよ！」


鹿矢の嘆きは剣と刀が奏でる喧騒に掻き消えていった

蔓から花を取り、束ねながら、独り言を呟いている。

刀を振り回し狡猾に乱雑に切り込む！切り込む！！！