「………ねえ、ところで聞きたいんだけど」

無事ケット・シーとの戦闘に勝利した後の探索中、リナはイーラとルシェーナの２人に話を切り出す。
まず応答するのは、リナに世話を焼くことをより強く望むルシェーナだった。

「何でしょうか？」

「別に今すぐ帰る気はないんだけど…あなた達って、分割世界の境界を望んだ形で飛び越えるような術の知識とか、そういうのはあるの？」

念のため確認しておきたいんだけど…と付け足しつつ問うリナに、ルシェーナは申し訳なさそうに答える。

「申し訳ありません…アンジニティは元々他の世界への移動を禁じられた世界ですから、そこで誕生する精霊も、他の世界への移動についての知識を持たないんです。
…勿論、私も例外ではありません」

「そうなの…別に良いのよ、すぐにどうこうしたいわけじゃないんだし。
………イーラはどうなの？」

イーラは、相変わらず楽天的な態度を崩さない。

「ボクは炎の精霊だからね〜。分割世界を飛び越えたりっていうのは空間を司る精霊の領分だから、ボクの管轄外だよ。
そういうのは聖人サンセットジーンの傘下の精霊に多いかな。ボクはガリバーヴォルクの傘下だから関係ないよ」

どのみち、人間の魔力じゃ聖人サンセットジーンの傘下の精霊の加護を受けるのきついけど、と付け足しつつ説明する。
リナは、自身が受けてきた教育との齟齬に首を傾げた。

「…守護者って、おとぎ話の存在じゃなかったの？」

「人間の社会では基本そういうことになってるよね。
まあ、人間の学問や魔法は、守護者はもちろん精霊達の存在を規定しないでそれなりに成立して上手くいってるみたいだし、それはそれで一つの見識じゃないかなー。

…ボクは割り切った上で加護を与えてるからいいけど、ルシェーナは寂しいかもしれないね。どうなんだろ？」

「………」

イーラの口調も表情もあっけらかんとしているが、ルシェーナはイーラの最後の言葉を、肯定こそしないが否定もしなかった。

「………どうなの、ルシェーナ？」

リナの問いに、ルシェーナは少し躊躇った後、口を開いた。

「………存在を認識されない事自体は、今に始まったことではありませんし、問題ではありません。

ただ………一度認識して頂いたからには、忘れないで欲しい…という思いは、無いと言ったら嘘になります」

「………そう」

リナは真剣な表情で頷いた後、にっ、と朗らかな笑みを浮かべてみせた。

「…大丈夫よ、私が一度会った子…それも、知らない世界で私を支えてくれた人を忘れるわけないでしょ？
私は歌手志望だけど、魔法だって私を形作る一つには違いないんだから。

魔法は道を切り開く支えよ…勿論、それを助けてくれるあなた達もね」

リナは、優しくイーラとルシェーナの頭を撫でる。ルシェーナは安堵の表情を見せたが、イーラは

「ボクの方が年上なんだけどな〜…ま、いっか♪撫でてくれるの嬉しいし♪」

と、嬉しそうな笑みを見せながらも一言多かった。

（剣から無数の血管が腕に延びるようなおぞましい錯覚）