お兄ちゃんへ

この世界に来て三日が経ちました。私は元気にしています。お兄ちゃんは元気にしていますか？
ここに来てからおともだちがたくさんできました。いつかお兄ちゃんにも見せてあげたいです。
まだまだ当分帰れそうもないけど、帰れるまで私は頑張ります。
お兄ちゃんも体に気をつけてください。またお手紙書きます。
返事も、待っています。

みどり

　見知らぬ少女に声をかけられ返事をしながらも、「会ったことがあるだろうか」と記憶を探った。
　出会った女性のことを忘れるほど鈍った覚えはない。
　しかし、もし忘れているのだとしたら早急に思い出さなければ失礼にあたる。
　イレネオは僅かに焦りを感じていたが、次いで少女が口にした言葉で息をついた。

　頭を下げてくる碧里に狼狽えながらも、右手を差し出して握手を求めようとする。
　そして、彼女の突拍子もない言葉を聞いて硬直した。

　言われた言葉を繰り返す。
　右手は行き場所が無くなり、中途半端に浮いたままだ。
　碧里の輝く瞳を見、それから彼女のエンブリオを見て、
　最後に自身のさらけ出された腹に目をやる。

　おそらくは戦いの時よりも威勢良く声を上げると、碧里の出方を待った。

　……そして数分後に、自分の安易な選択を悔いるのだった。