昨夜は、呪文書の書き写しに専念していた。
しかし、このペースではとても魔王という者を倒すまでに全ての呪文を書き写すのは不可能であろう。
やはりエンブリオの力を使っていくしか無いのか……

エンブリオとは、不思議なクリーチャーだ。
この世界、メルンテーゼではネクターと呼ばれる紅い花びらを用いてエンブリオと契約を成す。
そして契約したエンブリオは、契約者の生命力を糧に彼らが持つ力を用いる。
召喚呪文で呼び出したクリーチャーのように命令には従順であるが、時間に特に制限は無く、失った代償も必要無いようだ。
どちらかと言えばドルイドの従える動物に近似しているだろうか？

とはいえ、召喚したクリーチャーやドルイドの動物のように直接使役し戦わせるほどの能力は無い。
相当力量のあるエンブリオであれば、あるいは可能なのかもしれないが…
だが彼らは驚くべきことに、術式を補完し、触媒と成りうる、大きな能力がある。
エンブリオさえ入れば、呪文構成要素も要らない。呪文動作も相当簡略化が出来る。
呪文書も持ち合わせず、念じるだけで呪文が発動する…それこそ、ソーサラーまがいのことが可能なのかもしれない。
もっとも、私は元の世界で落ちこぼれになりたくはないので、従来通り呪文を使っていくこととするが
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目の前で停まった女性に気付き、こちらも足を止めた。

全部憶測に過ぎなかったのだが、あえて肯定し頷く。
その後差し出されたクリスタルを見遣り、そのまままじまじ見つめる事しばし。

突然の事だったが、男はさも口惜しそうに頭を下げた。

ふ、と君が弩に興味を示しているのに気付いたようだ