「これは焼きりんご味だ」

そう言いながら手にした飴玉に魔力を込め、相手に投げつける。
猫にしてはかなり大きく、小型の犬くらいありそうだ。
しかし、サイズが大きければ大きいほど、的としては申し分無い。
柔らかそうなお腹に投げつけた飴玉がめり込むと、大きく後方に飛んでいった。
その姿を目にし、気が緩んだのがいけなかった。
飛ばされた猫の魔力が増大し、空中で回転し、その勢いを殺さず、着地と同時に爪を剝き出して襲ってきた。
なんとか致命傷は避けたものの、攻撃そのものまで避ける事は適わなかった。
腕と頬が軽く引き裂かれ、血が流れる。
傷ついてないてない方の腕で血を拭いながら、距離をとり、別の飴玉を取り出す

「味わって食え。キャロット味だ」

先ほど同様、魔力を纏った飴玉は命中するものの、まだそれほどのダメージを蓄積出来ていないのだろう。勢いを殺さずにこちらに向かって体当たりをかましてくる。
距離を取ろうと後ろに飛んだのが不味かった。
突進してくる猫を避ける事が出来ず、地に突っ伏してしまった。
相手を牽制するつもりで投げつけた飴玉も、体勢が悪かった所為もあり、見事に外す。
体勢を立て直す前に猫の追撃をくらい、またも無様に地べたに這いつくばる。
仰向けになると、これぞとばかりに追撃をかけようと、猫が飛び込んできた。

「たくさんあるから遠慮するな」

そう呟くと、先ほど取り出した飴玉の残りを猫に向かって投げつける。
空中では身動きが取れなかったのだろう。投げ付けた飴玉は見事に命中し、猫の身体をもう数秒空中に留まらせる事には成功したものの、こちらが体勢を整える頃には相手の体制も整っており、手痛い反撃を受ける。
リズムを崩さずに再度襲い掛かってくる猫の行動を見切り、魔力を込めた飴玉を叩きつけて空中へ投げ飛ばす。

「特別サイズだ。しっかりと味わえよ」

棒の付いた巨大な飴玉を取り出すと、落ちてくる猫にタイミングを合わせ、力いっぱい叩き付けた。

「アンタ、小動物相手に何マジになってるのよ？恥ずかしくないの？」

襲ってきた猫が起き上がらない事を確認しながら答える。

「魔力を借りながらの戦い方に慣れてないだけだ。動きだけで言えば、歳相応以上には動けてる筈だ」

「そんなんじゃ、この先が思いやられるわね」

「そう思うなら、お前が戦え」

「そんな事より、ほら、エンブリオが気絶している間に、口の中にネクターを突っ込むのよ！ほら、早く！」

本気で言ってたのか？と突っ込みをいれつつも、使い方をしらないのだから取り合えず試してみる事にする。
荷物の中から先ほどルリアンナから頂いたネクターの花びらを猫の口の中に突っ込む。
ぴくぴくと悶え始めたと思い始めたら「に゛ゃーーーー！！！！」と悲鳴らしき泣き声を上げながら暴れまわる。
暴れまわる猫の体当たりをくらいながらも「そんなに不味いのか」と呟きながら、やはり使い方が間違っていたかと思った瞬間だった。

　言葉ほどには驚いてはおらず、「珍しいものを見た」といったふうである。
　そしておっさんの小声に、嬉しそうに反応して、