城壁の外。
各々が根を伸ばし、時に絡まり新しい種が芽生える。時にそれは草原を滑るように流れる風に乗り、その草原で羽を休める者達によって遠くまで己を飛ばしていくだろう。

その緑黄の波の中。その中に一際目を引く者が居た。
引き締まり、肉食獣のそれを思わせる動作。獅子の鬣を持ち、それがゆっくり歩くごとに、太陽の光によって金糸の様な毛並みが波打っていた。
だがその姿は優に３メートルはあるだろう。前足は大柄の大人２人が腕を伸ばしてやっと繋がる程だ。
そして特徴的な物が。獣の脇から生えてる、一対の翼と所々にある甲羅と思われるもの。どちらも鋼鉄に近い鈍色の輝きを放っていた。
そして獅子とは程遠い、捻れた双角がより一際、その獣を異様なものと見せる。

その獣は何かを探しているのか、頻りに周囲の見回し、鼻先を地面へと近づけて何かを探している様だ。
その獣の顔には毛が生えている部分が少なく、よく見なければ滑らかな鱗が所々にあるのだと気付くだろう。
その相貌は獅子というよりも、鋭い牙から竜の顔（かんばせ）に近い印象が与えられた。
甲羅と翼以外は獅子に近い黄褐色の色合いに近いが、右眼と喉元だけは皮膚引きつり、黒ずんだ色合いになっている。火傷の痕だろう。盛り上がった肉と、淀んだ色合いとなった右眼が痛々しい印象を与える。

やがてその獣は目的のものを見つけたらしい。
そこは草原のなかでも色とりどりの花が咲いている場所でもあった。その獣は更に顔面を近づけていき、ガッ—と鋭い牙を見せた。赤黒い口腔がテラテラと光の反射によって照らされているのが見える。

そして獣はその小さな花弁を食べ始めた。
前にある小さな門歯で花びらの先を銜え、上顎を器用に使い、丸い小さな花弁一枚をずつ剥がし丁寧に咀嚼していく。
花びらが無くなればまた別の花へ。それを繰り返し繰り返し、その獣は黙々とその異様な食事を続けていった。

日が傾き、獣が移動した跡には草の長さがバラバラな跡が残っていた。
どうやら満足したのか、花を探す動きを止めると、はた、と後ろを振り返る。反省しても後の祭りとなっていた。

《・・・・・・食べ過ぎた》

カーフェイネスは小さく溜息を吐く。既に被害にあった花たちは、無残ともいえないが、綺麗に花弁の部分だけ摘み取られているので、痛々しいことこの上ない。
いっそ全部食べて、花は好物だけど全部食べたら確実に草が無くなる。我慢はしているけどどうにも美味しそうで、我慢のガタが云々云々。
その場でドスドスとけたたましい足音を響かせ、動き回る。
暫くして落ち着いたのか、やや草刷けの良い場所に移動し、ゴロンと横になる。
ポカポカとした日の光。

《日が長くなったね》

眩しそうに目を細め、やや熱を持った草の上へと下顎を乗せる。
居心地の良い場所を探しているのか、時々翼を動かし、付け根の隙間を空ける体勢を取った。

（あったかいなぁ・・・・・・）

サワサワと葉が小さく擦れる音。それに合わせて切るような風の根と生き物が活動する命の音色が聞こえる。
低くなった視界。その中でも、己の視界を照らす陽光。天上を覆う様な眩しい光は、今ゆっくりと山の後ろへと隠れ始めていた。
一際紅い光がゆっくりと影の世界へと移ろう。だが、その光は今だ己だけではなく、全ての物達へと降り注いでいる。

（ルーチェ・・・・・・）

眠気が遅い、次第に目蓋が落ちてくる中、夕焼けの赤にも負けぬ、鮮やかな紅を持つ妻の事を思う。
そっと目を閉じても、目蓋の裏に鮮明な姿が写りあがる。カーフェイネスが完全な眠りに落ちるまで、暗闇の中でその姿が消えることは無かった。

＞ティシアさん

「君の角も小さくて・・・」と言っていた気がしたが、最後まで聞き取る前に逃げて来てしまった。

立ち止まって気づく

走ってきたので、もう相手はどこにいるか分からなくなってしまった

そう誓いつつ、こぶしを握るのであった

　　　　　　静かにはたきを構え

　　　　　　襟元を正しながら周囲を窺い

*何かを発見して嬉しそうだ*