（一枚の、何の変哲も無い便箋。
　その最上段、表題と思しき箇所には『元素世界に於ける三命題の試行及び実践』と書かれている。
　さほど多くない文面の中には、塗り潰されたり擦り消したような跡も散見される——）



　現地暦日△△時点にて

　　本格的活動開始　　主導権は【マリア】
　　　　　　　　　　　　約定の効力は破棄不可、推移を見るのみ　今後/////

　　世界法則　エンブリオ　契約＝ネクター　触媒→使役 協力？共生？
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　支配ないし寄生形態サンプル・要捜索

　　人形素体　現在5〜///程度　順次増殖処理中　再生完了分は随時出力
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆重要☆　進化導力の水準には不足　要・更なる補充

　　叛乱発生以前の周辺敵性生物→　詳細な記録無し　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　叛乱に付随して多数発生？　「新王」との関連性

　　軍事的格差（叛乱勢力−新王軍）→　住民共同体レベルでの軍事概念はきわめて薄い
　　　　　　　　　　　　　　　　　└軍の規模等　情報が不足

　　今後の支配体制移行の可能性：住民間の叛乱抑止派→Minority　新王の抵抗力次第
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同様の支配的統治を望まない気質？　便乗は困難　検討除外

　　進化Methodへ【マリオ】から提案あり：確//////ず　一考の余地ありと認める
　　　　　　　　　　　　　　　　　秘匿の上検討　意見の相違について考//////



（——その便箋に、気のない様子で視線を落としていた黒ずくめの女。
　手にしたそれを溜め息混じりにひらひら振ると、傍らに鎮座していた大鞄の留め金をひとつ外し、無造作にその隙間に滑り込ませる。
　女の繊手が大鞄から引き抜かれた次の瞬間には、ぱちん、と再び留め金の閉じる音が軽やかに鳴っていた）


　「……相変わらず、無駄に細やかな男ですこと。
　　詳細に殊勝に記録なんて残しても、それが過去の失策への反省に役立ったことなんかありませんでしょうに」

　同行者たちの視線の届かぬ死角で、ひっそりと気怠げに呟く“人形使い”。
　それを耳にした者がいたなら、常なる彼女の自信家めいた振る舞いからは想定できぬ、薄暗い感情……

　　——無条件の侮蔑——

　…を聞き取る事が、あるいは出来たかもしれず。

　どれ程の悪意が、誰に向けて、そこに込められていたのか。
　未だ、誰にも其れを知る由は無い——

一揆軍の拠点。そこで一人の女性が話しかけてきた。
金髪を結い上げてまとめており、エメラルドグリーンの瞳が印象的である。