○月　×□日

　——初めての攻城戦。

　結論から言うと、私たちは無事勝利したのでした！
　事前に立てた作戦がしっかりうまく行った感じで、思わず飛び上がっちゃった！

　……でも、相手はハニワだったんだけどね。

　うん、ハニワだったんだよ。
　なんて言うかこれでもかってくらいにハニワだった。

　……うぅ、まだ体当たりされたところが痛いや。
　ハニワさんたち、何を思ったのかいきなり捨て身の体当たりをしてきて、思った以上に痛い思いをしちゃったよ。
　自分にヒビが入ってもかまわずに突進してくるのは、正直言ってすっごく怖かったな……。
　アンジェリカさんの打たれ強さがとっても心強かった。

　それで、そのハニワ何だけど。
　どうやらエンブリオだったみたい。
　天使さんがエンブリオっぽいって言うし、ネクターに興味がありそうだったから契約を試したらあっさりと出来ちゃって。

　そんなわけで。

　ハニワさんが仲間になりました。
　うん、なんていうか。嬉しいような、そうでもないような……。

　わかんないっ、わかんないよっ！

　表情は変わらないし喋らないし、基本動かないし！
　何考えてるのハニワさん！

　動揺しっぱなしの私を見かねてなのか。

　天使さんがそんな事を言いながら、ハニワさんに後ろから抱きついた。
　そしたら、ハニワさんがちょっとだけ震えるように動いた気がして。

　あ、ちょっと嬉しそう。

　——なんだかハニワさんとも仲良くやっていけそうな気がした私でした。

　　　＊　＊　＊

　——お母さん、野宿です。

　さらさらと輝くような砂の上から空を見上げれば、きらきら光輝く満天の星空です。
　おっきな月もすごくきれいで、思わず溜息が漏れちゃうくらい素敵な光景でした。
　出来ることなら、いつまでも見上げていたい。
　そんな風に思えるほど、私はここの夜空に感動したわけです。
　……そう、出来ることなら。

　……はい。
　砂漠の夜は、どえりゃー寒いです。

　がたがた震える天使さんの羽に潜り込んで暖まってた妖精さんが、無慈悲にも天使さんに鷲掴みにされ投げ捨てられて、止めにハニワさんに踏みつぶされました。
　……エンブリオ同士でも、なんだか上下関係が決まってきたようです。
　世知辛い。

　そんな私は、揚羽ちゃんが用意してくれた分厚い毛布にくるまって、テントの中で丸くなってます。
　本当なら、転送装置にこの座標を記録して、船に戻ってもよかったんだけど……。
　仲間を残して戻るのはなんだか、忍びなくって。
　野宿を選んだ私でした。

　もちろん野宿は初めてじゃないし、どちらかって言えば慣れてるんだけど。
　さすがに砂漠の夜は初めてでした。
　知識としては知ってたけど、こんなに冷えるとは思わなかったよ。

　見張りは揚羽ちゃんがやってくれてるから、テントの外に出ないでいいのは幸いかな。
　……というか、揚羽ちゃんなんでこんな寒いのに平然としてられるんだろう。
　初めて会ったときから、どこか超人的なところがあったけど……。
　未だに揚羽ちゃんは底が知れないよ。

　なんて、そんなことを思いながら日記を書いてきた私だけど、さすがに寒くて嫌になってきた。
　天使さんも自分の羽にくるまってぷるぷる震えてるし……。

　あんまり寒そうだったから、一緒に毛布にくるまろうよ、って誘ったら、たっぷり一分くらい悩んでから、

　なんて、ぶつぶつ言いながらも毛布に入ってきて、一緒に毛布を被りました。

　天使さんはずっとそっぽを向いてたけど、体はぴったりくっつけて、羽も回してくれて。

　嬉しくてぎゅっと抱きついたら、ちょっと迷惑そうな顔されちゃったけど。

　天使さんはとっても暖かくて、優しくて。
　私はなんだか、すごく幸せな気持ちになりました。


　○月　×□日

　——この世界に来て、意外な出会いがいくつかあった。

　エリアお姉ちゃんと会えたのも、その一つ。
　すごい偶然だったけど、お兄ちゃんに言わせれば、これも当たり前に決まりきっていた事なのかもしれない。

　エリアお姉ちゃんは、昔、それこそ三百年前になるけど、お母さんが旅をしていたときに、お義父さんと出会った世界で知り合ったお友達なのだ。
　ダンピールっていうちょっと珍しい種族のヴァンパイアハンターで、とても強くてきれいな人なんだってお母さんから聞かされていた。

　私は当然、直接会ったことはないんだけど、夢で何度か見た事があった。
　それは、違う時間の私の記録。
　いつかどこかで、私は時間を遡り、エリアお姉ちゃんに会っていた。
　そんな時間が、時間軸が存在していたらしい。
　だからそんな、例えるなら平行世界の私がエリアお姉ちゃんに出会っていたから、私はこの世界で、偶然にもエリアお姉ちゃんを見かけて、驚いて、嬉しくて、声をかけてしまったんだ。
　もちろん、エリアお姉ちゃんは私のことを知らない。
　それも当たり前の事で、私からすれば今はそれぐらい昔……。
　エリアお姉ちゃんからすれば、お母さんと出会ってから、まだ何年と経ってない頃なんだから。

　だから最初は『はじめまして』

　そんな当たり前の、だけどちょっとサプライズな出会い方……。

　　　＊　＊　＊

　——SIDE 揚羽

　ぼぅっと星を数えながら見張りをしていると、ティアとあまり変わらないくらいの女の子がテントから抜け出してきた。

　少女……イオナは小さくあくびをしながらたき火の近くまでやってくる。

　私は一応用意しておいた折りたたみの椅子を組み立てて、彼女に勧めた。

　そういう彼女の顔色は、あんまり良いとは言えなかった。

　野宿にも慣れていないのだろうけど、夜の砂漠で冷えてしまったのだろう。
　厚着した上に毛布まで羽織っているけれど、やはり寒そうだった。

　巾着から一包、粉薬を取り出して、水筒に入れておいたお湯と一緒に手渡した。

　もちろん、なんだかわからない彼女は怪訝そうな顔をしたけれど。

　不思議そうな顔をするイオナ。

　それもそうだと思う。私の故郷でも、疑わしく思ってる人は少なくなかったから。
　これで、風邪の予防や肩こり、疲労の軽減にも効果があると言ったら、どんな顔をするんだろうか。

　まぁ、予想通り。

　慣れていなければ、あまり歓迎できない味だろう。
　そんな彼女に苦笑しながら、火にかけていた鍋をとって、中身をカップに注ぐ。

　カップの中身はただのミルク。

　ホットミルクが飲みたくなって、船から持ち出してきた物だ。
　ちなみに、少量ながら蜂蜜入り。

　こう、素直に受け取ってもらえるのはありがたい。

　微量だけれど睡眠薬も入れておいたから、これでしばらくすれば彼女も寝られるだろう。

　自分の分も注いで、カップで温まりながら彼女にうなづいた。

　……一応耐性があると言っても、寒いものは寒いので。

　本当に危険な状況にでもなるか、ティアから直接頼まれなければ、私は手を出さない事になっている。

　それがティアの希望だし、依頼主からもそのように頼まれているしね。

　言葉のイメージと合わないのか、どこか釈然としない様子で首を傾げた。

　まぁ、その気持ちは分からないでもないけど。

　ティアは私の三倍以上の時間を生きているエルフなのだけど。

　そのくせ、中身は子供っぽいところが少しも抜けていない。
　すぐムキになるし、表情は分かりやすいし、からかうと楽しいのは私も同意見だ。
　……けど、本当のところは教えてくれそうにないか。

　くすくすと含み笑いをこぼすと、一度小さくあくびをして立ち上がった。

　薬が効いたのか、ミルクを飲んで落ち着いたからか。

　彼女の顔色は普通に戻っていて、どこか眠たげに瞼が下がり始めていた。

　一応、と言った様子で「おやすみ」とだけ言うと、彼女はテントへと戻っていった。

　……これでまた一人だ。
　三つのテントはどれも気配が落ち着いている。
　今度はもう、夜が明けるまでだれも起きてこないだろう。

　暇をつぶそうと巾着からＰ○Ｖｉ○ａを取り出して、電源を入れてから気がついた。

　早くやりたい気持ちを抑えて、ゲーム機を仕舞う。

　横に置いていた刀を拾って立ち上がり、星と月に照らされた砂漠を見た。
　……気配は五つ。
　人のようではなかったし、おそらく夜行性の生き物だろう。
　敵地って事は忘れていないつもりだったけれど、少し気を抜きすぎたかもしれなかった。

　だとすれば、この状況も悪くない。

　誰にも気づかれないよう、目撃されないように相手取ろうとすれば、少しは運動になるだろう。

　みんなの安眠を守るのも、護衛の仕事のうちだし、ね。

口元を緩め、川面を眺めながら陽気に。

　

近づいてみると、青年の近くに妖精が飛んでいるのが見える。
こちらに気づいたのか、興味深そうに近づいてきた。

…なぜかフィリーが誇らしそうに語る。

　クロエは目を輝かせながら、そうまくしたてた。

渋々といった面持ちで武器を構えた。

神妙な面持ちでレモラの尾を掴みぶら下げている。生臭い。