ラルフさんの腕試しが初めての戦闘みたいなものだったのに、まさかこんな本格的な戦闘をすることになるだなんて。

戦闘が始まってからというもの、すっかり周りが見えなくなっちゃってたみたいだ。
一息ついて前を見れば、そこには私の知らない大きな影が鎮座していた。

申し訳ないことに、まこちゃんの言葉に反応する余裕は私には無かった。思わず『ばーんってなってびりびりーってするそれ』を取り落としてしまう。

クキュルちゃんの声が、辺りに響き渡る。その声は、目の前の大きな影から発せられていて。

大きなトカゲ……ち、違う！　あれは……！

間違いない。実際に見たことなんて勿論無いけれど、あれはドラゴンだ。とんでもない力を持った、恐ろしい種族だ。

ふふん、と言わんばかりに目の前のドラゴンは、そんな言葉をかけてくる。クキュルちゃんの声で。

その威容に圧倒され、思わず地面にへたりこんでしまう。

そんな、優しい言葉をかけてくれるまこちゃん。でも、違う！　そうじゃなくて！

自分でもかなり混乱しているようで、言葉が支離滅裂になりかけている。

グワッと口を開ける巨大なドラゴン。そこには勿論鋭い牙が並んでいて。

ドラゴンとまこちゃんは、そうやってまったりとしたやり取りを私の目の前で繰り広げている。そこでようやく、私の頭も多少落ち着いてきた。

未だ自信がなく、恐る恐る語りかけてみる。

再びグワァッと口を開け、豪快に笑うドラゴン——クキュルちゃん。

実際に見るのは初めてだ。お母さんの話に聞いてはいたし、本でも読んだことはあるけれど、冒険なんかしたことない私にとって、ドラゴンなんて無縁の存在だった。

そう言って、前腕をぽふぽふと軽く叩くまこちゃん。握手の代わりみたいなものなのかな。

ハーフドラゴンには、ドラゴンと人間の姿を切り替えることの出来る者も居るってことを、お母さんから聞いたことがあった。

ドラゴンになるのが目標……もう十分ドラゴンになってる気がするけれど、きっと何かまだ足りないってことなんだろう。

改めて気を取直す。そうだ、私もおどおどしてないで、頑張らなきゃ。

ぐり……ぐりがら？　よく分からないけど、きっとクキュルちゃんが信仰している神様か何かなんだろうな。

そこで、クキュルちゃんは私達を笑顔で見守るだけだったライアーさんに声をかけた。

まぁ、商人さんがドラゴンになってもメリットってあんまり無い気はする。

一瞬ドラゴンになった私を想像したけれど、いまいち迫力が無い感じになりそうで、なんとも言えない気持ちになった。

機械に頼らぬ世界。その言葉を数瞬の内に反芻する。興味は、あるかもしれない。でもそれ以上に、比べられない程に、私は機械が大好きなんだ。

そんな所に、ドタドタという足音と共に突然赤い影が現れて。

稲妻の様に去っていった。

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拝啓、お母さん。
初めての実戦、何とか勝つことが出来ました。お母さんから聞いてた色々なお話のお陰かも。
一揆の仲間であるクキュルちゃんはとっても大きいドラゴンさんでした。
初めは本当にびっくりしたけれど、話してみれば中身は変わらずクキュルちゃんで。
驚いてしまったこと、申し訳なくなっちゃいました。

私の一揆は、本当に驚きの連続ばかりです。
そんな中でも、みんなと少しずつでも仲良くなれたらいいな。
そう思ってます。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　エレネ
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いつの間にか、あなたの隣にぶつぶつと何事かをつぶやく女性型のアンドロイドが立っている。

話し好きな団体から抜け出してきて突然声をかける。

ひとりで先にぺらぺらと話し出してから、はたと気づいて改めて向き直った。

黒の礼服を身に纏った青年が1人の少女へと着目する。
少々眺めるように見ていたかと思うと、ゆっくりと少女のいる方向へ足を運び始めた。

我慢ができないと言わんばかりに、青年は更に一歩、少女の方へと足を踏み出した。

一方、全身を白っぽい格好で固めた小柄の少年がキョロキョロと辺りを見回している。
2人の存在にはまだ気が付いていないようだ。