「こんなものですかね」

　水辺の探索を終え、人心地ついていると懐に入れていたポータブル鳥居が振動する。
　誰かな、と一瞬思ったが、このような状況で連絡をしてくるような相手には一人しか心当たりがなかった。

「はいもしもし、玄久郎です」
「ああよかった。ちゃんと繋がりましたねえ」

　ポータブル鳥居には狐面のマークが表示されている。
　想定していた相手で間違いなかったようだ。

「連絡が無かったから心配してたんですよう。もう、そっちには慣れましたか？」
「ははは、すいません。ゴタゴタしていたんですっかり忘れていました。ええ、問題ないですよ」
「それならいいのですが……ところで、ちょっと詳しい話を聞かせてもらってもいいですか？　やはり、こっちには情報もろくに入って来ませんので」
「そうですね。どこから話したものか……とりあえず、一揆軍として王城へと侵攻しているところなのですが」
「いきなりクライマックスですねえ」

　言われてみれば確かに。
　けれど、話は早いほうが気も楽だ。

「こっちとしては手っ取り早いからいいんですけどね」
「そうですか？　まあ、当人がいいならいいんですけれど……」

　もとより、戦いがあると聞いたからこそ呼ばれたのだ。
　この状況に否があるわけがない。

「それじゃ、基本的にはあなたに一任しますけれども、連絡だけは忘れないでくださいね？」
「ははは、お任せください」
「初っ端から忘れてた人のセリフじゃありませんよう……」
「これは面目ない。まあ、定期的に連絡しますよ」
「お願いしますよ？　あと、無茶はしないでくださいね。……それじゃ、お気をつけて」

　通信が切れる。
　ポータブル鳥居を懐に仕舞い、軽く伸びをすると先程から何かをわめいていた裸の兵士がこちらへと向かってきた。
　通信が終わるまで待っていたのだろうか。意外といい人だ。
　……兵士、というからには、戦闘訓練を積んだ人間なのだろう。
　来て早々で思いの外踏み込んだ展開ではあるが、構うまい。
　なにより、無茶を避けるとしても、どのくらいが無茶に当たるかをまず調べねばならないのだ。
　ちょうどいい試金石を、逃す手はないだろう。

「お待たせしました。さあ、始めましょうか」

そう言って、彼は木気を帯びた剣……という名の杖を抜いて構えた。