不意にぽいっと、意識が投げ出されて。
一転、二転三転と、目眩のようにつられて回る視界。
四度目で漸く落ち着いたかと思えば、

「あ、間違えた」

降ってきたのは、そんな間の抜けた声。
辿る様に見上げると、
魔法陣を囲んで集団で祈りを捧げる儀式が似合いそうな、黒ローブ姿のお兄さんが立っていた。

怪しい雰囲気にそぐわず朗らかな笑みを浮かべたお兄さんは、何でも召喚士らしい。
別の人を呼び出す筈が、座標と言う物を間違えて自分の足元に召喚陣を展開してしまったとの事。

「いやあ。ここを挟んで逆方向の世界だったんだよねえ。
　まあ、料理で砂糖と塩を間違えるぐらい、無さそうで有り得なくもない話だよね」

あはは、と笑う声は嫌味なく明るい。
余りにも堂々と構えた姿に、元の世界に還す術があるのだろうと問いかけてみたら、
返答は、清々しいほどの「NO！」だった。
…うっかりその額にちょっぷをかましてしまった自分は、悪くないと思う。

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「無駄な怪我人は減らしたいからな」

気遣いめいた言葉も、強面の人に言われると脅しのように聞こえるから不思議だ。
いっき、えんぶりお、ねくたー。
耳に馴染まない単語に首を傾げていたせいで、すっかり会話の流れに置いてけぼり。
…あ、ネクターは飲み物だったかな。

召喚士のお兄さんから、ある程度話を聞いておけば良かった、と思うけれど、
あの適当さと丸投げっぷりを見るに、
こちらの質問に面倒くさがらず答えてくれたかは怪しい。
今この場にいる二人に話を聞こうにも、
そんな良くわからないご褒美はいらないから、その拳を下ろして話を聞いて下さい。
なんて、とても言える雰囲気では無いし。

……うん。困った。

2013/0X/XX 22:00
From 柊　魔異
To 有城　冬花

届いているだろうか。
俺がそっちを離れて暫くになるけど、変わりは無いか？
訳有って、今は帰れずにいる。でも、きっと戻るよ。
だから、溜まっているであろうメールへの返事は、もう少しだけ待っていてくれ。

写真、俺も撮ってみたんだ。
お前の言っていた、『自分の感じたものを誰かに伝えたい』ってこと、少し分かった気がする。