（今の話）

ラルフ青年は力強い人物だったが、俺の方が強かった。
良き闘いに感謝を。

城塞から離れてしばらくすると、川辺地帯に辿り着く。
淡い水色の空に雲が流れて、青臭く若草の香りを立たせる芝生が広がり、
パステルカラーの野原に清流がちょろちょろと流れていた。
美しく陽光を弾く水の煌めきがやけに眩しい。


ところで俺はそもそも腐敗と泥沼と流血を好む存在であって、
強力殺菌済の個室とごみための底どちらか寝床に選べと言われれば
圧倒的に後者に軍配が上がるという具合の性癖だった。

よって、人にとっての正は負であり負は正であり、
心地いい場所なんてものも俺には全然心地良くは感じられない。
さっさとこんな地帯は抜けて淀んだ空気の中で深呼吸したいものだ。


闘いの気配がする。
あの、傍にいる何者かの声は、また聞こえてくるだろうか。

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（昔を思い出す話）



生きてきた時代のうち一つに、人の文明のまだ存在しない時期があった。
灰になった時に記憶は大分混線してしまったので明確には覚えていないが、
俺は確か岩がちな山地に暮らしていて、山羊の腹を裂いたり
禿鷲の卵を高所から放り投げたりして遊んでいたような気がする。

俺のささやかな稚気と児戯についてはともかくとして、
ともかく俺はその頃にようやく、
手にものを取り道具を使う事を思いつき実行し始めていた。
といっても殆どの石や鉄は俺の爪よりは脆く、肉体の性能を補うというよりは
工芸と細工を遊びの一つに組み込んだと言った方が正しい。

そうして作った石のナイフや斧を使って、
爪とは違う肉の裂き具合を眺め、それなりに楽しんでいた。



今使っている武器はどこで用立てたものか覚えてはいない。
鎌の刃があまり横に飛び出すぎていて気に入らないのを、
捩じ曲げて柄に巻き付けたのだった気がする。
手入れの手段を知らない訳でもないがその手間を惜しんでいたため、
すっかり錆び付いてなまくらになってしまていた。

灰から立ち上がったばかりで俺の力も相当に落ちている。
これで武器もしょうもないものを振るっていては、勝てる戦にも勝てはしない。
どこかで装備を見繕う、あるいは自分で作り出す必要がありそうだ。