完敗である。
武器を手放し少しでも身軽になり後ろに回り込もうとしたものの、綺麗に組まれた方陣の前に後ろへ回り込む余地は見出せず、正対を余儀無くされた時点で既に勝ちの目は無かった。
加えて精神的背後…トラウマをえぐる技術は脅威という他無い。セルフォリーフで腰を激しく痛めた時の記憶が自分の背中に回り込んで貫いてきた。アニマのおかげで回復はしたが、未だに少し暗鬱とした気分だ。只人が受け続ければ再起不能に陥るであろう。
なんにせよ、彼女らがあくまで試し合いで済ませてくれたのは救いであった。
負けて尚五体満足で次に臨める。良い勉強をさせてもらったことを感謝しよう。

道中見つけた小さなエンブリオ。
背後が隙だらけだったので軽く鍬で正面から背中を小突いてレクチャーしてやったところ、いたく感銘を受けたようで契約を申し出てきた。自分の背中は自分で守ることを条件に受け入れる。ネクターを預けアニマに従うよう命じておいた。

日が暮れてからというもの、一昨日までのむせ返るような暑さから一転、やもすると肌寒さすら感じるほど気温が下がってきた。
冷汗を多分に含んだシャツが背中にべっとりと貼り付き警戒がにぶるのではと恐ろしくて仕方が無い。替えは王城までの道中にてとうに尽きた。
幸い、そう遠くないところに都合の良さそうな水場がある。
背後の用心のためにも洗濯をしていくのがよいだろう。

…さて、日記はここまでだ。
やっこさんはもう随分お待ちかねらしい。今度はタイマンだ。

しきりに背後を振り返りつつ進む。

しゃーこ、しゃーこ