Page 1.
『メルンテーゼ』


精霊協会からの契約を打ち切られた後、ボクは退魔師としての仕事に復帰していた。
幸いというか何というか、世の中平穏な世界というものは早々無いようで。
以前退魔師をしていた時のツテもあって、依頼はすぐに見つかった。

依頼人はメルンテーゼに住む匿名希望Aさん(仮名)。
何でも新しく代わった王様が暴君で、資源を独り占めしようと強行しているとか。
まあ、どこの世界でも事態はそれ程変わらないらしいです。
で、取り敢えず詳しい話は追々するから取り敢えず来て欲しい、ということでありました。

メルンテーゼ。
のどかな田園風景が広がっていた。
ボクの住む街は都市化が進み、最近ではこういった風景が見られる場所も限られてきたものでありまして。

最寄りの駅まで各停でン時間。更にそこからバスでホニャ時間かけてやってきたのは小さな集会所、だろうか。
人口密度という単語とはてんで無縁そうなこの世界だけど、この集会所だけは違う。そんな気がしていた。
何かこれからイベントでもあるのだろうか、中から大勢の気配がする。ような気がする。

受付のお姉さん、というには若すぎる女の子がこちらを見ていた。
確か依頼人の話だと、ちゃんと話は通してるから言えばわかるとか言ってたっけ…。

「ラルフー！ラルフーー！新しい希望者が来たよー！」

ボクの話を聞いてるのか聞いていないのか、女の子はボクの質問には応えずに奥にいる男へ声をかけていた。
ラルフ、という名らしい男は屈強な戦士のような出で立ちだった。
多分数々の戦場をくぐり抜けて来た。とか、身体の傷は勲章みたいなものだ。とか豪快に笑い飛ばしそうなタイプの人間だと思う。

「おう、今日は人が多い…いや多すぎるだろ」

ラルフと呼ばれた男はそう言いながらボクの前までやってきた。
近くに来るとやはり体つきが一般人のそれとはかけ離れていることが見て取れた。
ただ、遠くから眺めた時にはわからなかったけど、何故か疲労し切っている様子。

「まあいい。俺はラルフだ。よろしくな。で、力を貸してくれるのは有難いが、ネクターも有限だからな。早速だが少し実力を見させてもらうぞ」

そういうと、ラルフはいきなり構えて来て……って、アレ？ナンデ？話は通してくれてるんじゃなかったの？ねえ、Aさん……？
面を食らっている間にも、ラルフは戦闘態勢を取り終えてこちらの出方を見ているようだった。

けど、どう考えても今から戦闘を避けるというのは難しそうだ。
ああもう、仕方ない。こうなったらやるしかない。
腹を括ったボクは、宝剣を抜き、切っ先を目の前の戦士へと向けたのだった。