『そういえば、お前の名前を聞いていなかったな』

漆黒の虎が聞く。

「……夢路です」

『人間は苗字を持つものだと思っていたが？』

「私はあの場所から外れてしまったんですよ」

右目を手で押さえながら答える。

『ふん、“夢の路”か。皮肉なものだな』

「余計なお世話です。人には聞いておいて自分は名乗らないつもりですか？」

夢路が若干苛ついた様子で言う。

『名前というのは魂の形だ。それを知られるということは相手に自分の魂を握られることに等しい。たとえそれが名前の一部だとしてもな』

「何が言いたいんですか」

『軽々しく自分の名前を教えないことだな』

その言葉とともに夢路の右手が彼女の意思とは関係なく挙がる。

「……まるで詐欺師ですね。私はまさに、あなたの操り人形というわけですか……」

どこか諦めたような口調で夢路が呟く。

『精々役に立ってもらうぞ』

低い声が響き、影の中に獰猛な笑みが浮かんだ。

〜美味しい草を強火で燻し、付け合わせに美味しい草が添えてある。大自然の力をその身に宿すことが許された一品。ほとばしるヤケクソ感。料理と呼ぶことは許されていない。〜