「おーい、飯の準備が出来たぞー。
　　野郎共は俺の周りに集合、ご飯配りまーす。
　　…あ、フランの飯はうちのエンブリオが持ってるからそっちに取りに行って頂けると助かりますハイ。」



一揆に参加してから、3日目。





　「………。」

　「…あのう、エアナさん。
　　俺の作った飯、お口に合いませんでしたか？ぜんっぜん減ってないですけども。」

先程、心許無い食料を何とか上手い事料理し全員に配ったばかりの俺は、
昼の探索を前にちょっと一息、と自分の分の飯を片手に
エアナが陣取っていた大きな雲が影を落とす短い芝の上に腰を下ろしたばかりだった。
俺が隣に座っても興味すら見せないエアナはいつも通りだったものの、
やけにじっと手元を見ている事が気に掛かり、そっと背後から覗きこんでみたら——

　「…何、どうしたの？食欲無い？」

一口も頬張った形跡のない、俺が作って渡したままの状態のマフィンが握られていたのだ。



　「……エアナさん？もしもーし。」

　「………。」
　
　「エアナさんってば。…聞こえてる？
　　そもそも、俺の存在に気付いてる？ねぇってばー。」

もしかしたら俺の存在自体シャットアウトしてる可能性も否めなかったので、
俺は此処にいますよ、と。エアナの事心配してますよ、と。
そうアピールするためにエアナの顔の前に片手を出し、軽く上下に振ってちかちかさせてみた。

　「……煩い。存在が。」

俺のハートに効果抜群☆ミ
…の、冷たい一言がやっと返って来たので、ほっと胸を撫で下ろし振っていた手を下ろす。

　「何よもー。人が心配してやってんのにシカトは無いでしょうよエアナさん。
　　——で、何なの？飯、不味かった？…いやそもそも食べてないのに不味かったは無いな…不味そう？
　　あ、ほら自分で言って傷付いたー。不味そうって何だよ不味そうって……。」

はぁ、とため息を一つ。
平原で食料になりそうな物を、と昨日の探索で必死に探してみたものの、
俺が見つけた物といえばぽつり、と咲いていた黄色の綺麗な蒲公英のみで。
花は散らして綺麗に料理を着飾る程度にしか俺には出来ず、
寧ろこの世界ではこの綺麗な花が武器や、防具や、装飾に加工され一揆参加者の力となっているらしい。


…と、少し話がずれたので戻すと、
結局探索で見つけた食料は、ピンク大根ことりぐと、あほ双子ことチェン、ツァオが拾って来た“美味しい草”だけ。
流石に美味しかろうと草は草だ。
見た目が草の時点で食欲は失せてしまうのが人間という生き物だろ！
と、持って来ていたマフィンを半分に切り、
両面にバターを塗り、間にハム、チーズと野菜の変わりに美味しい草を入れたのがこの梓特製スペシャルマフィンー、だったのだが。

　「一口でいいから。
　　一口でいーからガブッといってみ！
　　得体のしれない美味しいという名の草が入ってるからって警戒しないのー。」

一応、美味しいというだけあってちょっと食感が物足りないものの、出来たマフィン自体は美味しいのだ。
他のメンバーにも好評だったし、とくに偏食のないエアナなら問題なく食べれると思う。
思うのに——、



　「……何で。」

　「…へ？」

　「…何でアズは、……女の子じゃないのに、料理上手なの？」

　「…………はい？」

もぐっ、と長い格闘(俺の一人相撲)の末、エアナはマフィンを一口頬張った。
相変わらず表情は変わらないものの、マフィンを飲み込むとご丁寧に美味しい、と感想を口に出してくれる。

…えっと、何？

　「……エアナさん、もしかしてそれが気になって飯も食べずに考えてたって訳じゃあ…無いよね？」

　「…だって、アズが作る料理、いつも美味しいもん。
　　普通料理って女の人がするもの、でしょう？…アズはお菓子すら作っちゃうし。」

何なの。と続けるように吐き捨てられた言葉には、よく解らない怒りが込められているように感じた。
いやいやいや、寧ろお前こそ何なのよ。

　「…そんなんねぇ、お前。
　　このご時世、男が料理出来ないとモテないのよー。出来てもモテないけども。
　　そう、そうよエアナちゃん、よく考えてみ。」




　「彼女がいない歴が長い＋一人暮らし歴が長い＝料理の腕がモリモリ上がる。
　　これ、モテない男の方程式。」



どうよ、久し振りに名言言っちゃったわー。と誇らしげに告げた俺に、
考えただけ時間を無駄にしたわ、とでも言わんばかりに蔑むような冷たい目線を送るエアナ。

嗚呼、どうやら今日も平和です。

　
　

　
　

地面に転がって嬉しそうに悶えているアニマのような生き物を指差して問う。