城内の山を登る＜魔女＞が、異常に気付いていたころ、＜手紙喰らい＞は目の前の＜手紙＞——それが召喚された理由や命令の詳細、これから何をするべきかが記されている契約書を喰らっていた。


　＜手紙＞を口に含み、咀嚼し、嚥下する。
　芳醇な風味な口内に広がり、＜手紙＞の持つ情報が噛み砕かれ、解きほぐされていく様に＜手紙喰らい＞は満足を覚える。砕かれた情報は断片と化し、前後の文脈がバラバラとなってはいるが、極上の味とともにこの世界の情報をもたらしていく。


　「ネクター」「元素の世界」「契約」「紅い花」「新王」「メルンテーゼ」「独占」「旧王」「エンブリオ」「パラダイス」そして「一揆」。


　嚥下した情報達は、そのままでは消化できないため、反芻を行う——得た情報を取捨選択、整理をする事で実際に消化し、情報によって生きる生命の血肉とする。
　断片化された情報を統合するに、この世界、メルンテーゼの旧王か新王のどちらかが乱心し、其れに対抗する「一揆」が企てられているようだと＜手紙喰らい＞は理解する。「イッキ」が「一揆」のことであると分かり、初期命令がそこまで理不尽でない事に＜手紙喰らい＞はまず安堵した。


　他に気になる単語としては「エンブリオ」「ネクター」「パラダイス」だろうか。更に情報の消化を進めていく。
　すると、「エンブリオ」とはこの世界特有に住む生命体であることが分かる。これもまたこの世界特有の「ネクター」という紅い花を対価に契約を行うようである（ネクター自体はこの世界の新たな王がそれを独占しようとしている事も分かったが、これは後に回した）
　契約が成立した暁には、エンブリオはその力を契約者に貸し、契約者はエンブリオに生命力を（わずかではあるが）提供する。


　その性質は、＜手紙喰らい＞の習性に非常に似通っていた。


　＜手紙＞の消化を行いつつ、自身の特性や情報を再度分析してみたところ、召喚された＜手紙喰らい＞はどうやらエンブリオと同様の性質——ネクターを必要とし、契約をする事で力を貸す存在として定義されている事が判明した。
　もっとも、己の持っている力の大半が（おそらく杜撰な召喚儀式により）封印されている身としては、力を貸すといっても、という感じではある。これはもう、色々と試してみるしかないだろうと＜手紙喰らい＞は諦観を覚えてはいるが。


　少なくとも、ネクターが必要である、という事が分かったのは収穫であった。
　参加するための大義名分と言う訳ではないが、他に理由なく嫌々やるよりも若干は切実な理由が存在した事は、ある意味においてはモチベーションとなる。
　一揆と言うからには戦闘能力が必要なのだろうから、自身の能力の把握が第一として、ネクターの入手方法についても随時調べていく必要があるだろう。幸いなことに、＜手紙＞を喰らったおかげなのだろうか、この世界の一通りの言葉を＜手紙喰らい＞は理解できるようになっていた。


　そのような事を考えながら数分、＜手紙＞の形をした契約書は、余すところなく＜手紙喰らい＞によって吸収される。
　やや悪意と害意が多めではある情報群であったが、思った通り極上の味であったことに喜びを覚える。
　まさかその＜手紙＞が、召喚された対象を縛りつけるトラップとして設置されたことなど＜手紙喰らい＞には知る由もなかったが、摂取され、消化された時点でその＜手紙＞のすべての力は失われた。


　一通りの食事と、その成果に満足した＜手紙喰らい＞は、己の名を「ラト＝エテル」と定義する。元の世界でも使用していた名だが、改めてこの世界に召喚された身として、＜名付け＞を自身に対して行った。
　そして最後に、ラトはこの世界に喚ばれた事を記念し、大きな鳴き声を上げて見せた。

　こうして、「一揆に参加する」以外の契約内容を持たず、ある意味では危険極まりない召喚生物が、一揆への参戦を表明したのであった。





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　丁度、ラトが鳴き声を上げたその時、一人の老人が「風鳴りの丘」と呼ばれる地を歩いていた。


　奇妙な風体の老人である。
　手には牧人用の杖を携えていることから、羊飼いをやっているのであろう。しかし、その姿がどうも狼の姿と二重にぶれて見え、時には完全に狼の姿を取りながら、ゆっくり歩いている。


　悩み事をしているのか、渋面で歩いていた老人だったが、ふと、彼方から聞こえる鳴き声に気付き、怪訝な顔をして見せる。目線の先には、かつて老人が外敵として追い払った者たちが潜んでいた洞窟が佇んでいた。

　白くてふわふわしたモノが跳ねてきた。

　ジャックは丸い体を上下に揺らしてお辞儀をした。

　虚空から湧き出た本が積み上がってゆく。

逃げてきたものの、たんなるペットに話しかけて勝手にびっくりして逃げてきた自分が恥ずかしくなった

気のせいだろうと思いつつ、もう一度自分の行動を反省していた

残念そうな表情を見て取ったのか、ぶーっと口をとがらせていたが、それはすぐに柔和な表情へと変わる。

にっこにこしながら、ラトの食事風景、もとい、横流し風景を眺めている。

いつのまにか、何かを咥えている。