キキョウちゃんの一揆日記(二日目)

(紙面の一部にソースのシミのようなものがついている。)

・・・まったく。お祭りではないんだぞ、お祭りでは！だがしかし、あれが話にきいていた屋台飯というやつか。口にしたことのない味で、正直なところ味が濃いだけかと思っていたが、庶民皆はこんな美味しいモノを祭りで食べていたのかと思うと、私はやっぱり彼らのことを知らなかったのだと痛感した。

生活の仕方ひとつ、食べ物ひとつ。服飾や調度品などについてもそうだ。王に全てを奪われて、家を取り潰されて、与えられたのは痩せこけた僅かな土地と、少しの食料。あとは何とか持ち出した、困った時の宝飾品のいくつかが、私たちの全てだった。

父様はいま、荒屋(彼らにとっては普通の住処だ。)で嘆き、母上はそれでも、日々の糧を得るために働いている。兄様たちは何処かへと逃げ、私だけが立ち上がった。


絶望から、怒りは生まれない。怒りは、悔しさや理不尽さ、愛情から生まれるのだと、父様を見ていて思った。父様が爺様から受け継いだアストラエアの家系は、父様の代で潰えてしまった。その絶望に耐えきれない父様は、怒りをもつことすらできなかったのだ。

そして皮肉にも、私の家で何かをしようと足掻いているのは、私と母様だけだ。「こういう時女は強いのよ。」と、涙を堪えながら言っていた母様の表情は、今でも忘れられない。

そうだ。こういう時、女は強いのだ。だから私も、この一揆を成し遂げて見せる！

ところで、屋台飯の作り方はどこへ行けば習えるのだろう？

自称「妖怪」のこの駄犬は、おさんぽが大好きである。

もちろん、撫でて貰うのも大好きである。

そう言うと、駄犬はひっくり返って腹を見せた。犬がよくやるあのポーズである。