『インプロ(即興劇)の舞台に一度立てば、もう兄弟姉妹みたいなもの』
”演奏家”としてのモルトの言葉であるが、このインプロとは彼女にとって非常に広域な表現だ。
たとえば舞台。たとえば寝所。たとえば戦争。
どれをとっても元々親しい仲でしか行えないだろ　というツッコミを横に置くならば、彼女の対人べったり能力は相当の域に達していると言わざる得ない。
ここで問題なのは、兄弟姉妹という言葉がある一面では文字通りであることだ。
無論血の繋がりは生じないし、性格や精神面が近づくという事はない。
ただ足音や声の把握、動作の癖などの物理的側面……特に発音発生を伴うものは、家族以上に把握されてしまうだろう。
ドン引きされるのを防ぐためそれらの情報は表に出さないけど、人物評の基準情報にはされてしまうので注意が必要だ。

片っ端から声かけて、結果集った自分と3人。 モルトが自らのＰＴに下した人物評、とは——

して、そのこころは。

といったところ。しかし自己反省の通り、この場合はほぼ初対面というメンツに対するモルトのテンションが高すぎるのこそが問題だ。
上記の把握能力により「あーこういうひとね」っていう印象の固定が行われるまでの時間が極端に短く、結果構築されたのがすさまじく物怖じしないこの性格。
交渉だの演奏だのの舞台においてはとても有効だが、人と分かり合う場面ではやや微妙と言わざる得まい。
関係を育むための重要な時間をすっ飛ばしがちなため、元の世界においても彼女の周りには親友か、魔女だ変態だとさげすむ輩しか、いない。それでいて、ぼっちに耐えられない性分なのだからたちが悪い。

この顔をするから友達がいないのだ。
さりとて周囲が自分に慣れるまで待っている、なんていう殊勝な真似ができる人間ではない。
性格的な問題もあるが、”周囲に音が響けば響くほど、それを使う事ができる”という音使いの性質が、喧噪と嬌声、人口密度と偶発の喜劇へ勝手に過剰に惹きつけられていく。

幸いというか、既に目星はつけてある。
元気で、活発で、何処かエキセントリックな——良く言えば特徴的、悪く言えばおいちょーッ？！って感じの人物を抱える4人組！
数の暴力で優位に立とう、と説明すれば、きっとどちら側にも納得してもらえるに違いない。

と。
内心に計略、外面に知性の輝きを偽装して、まずは集まった三人に、モルトは話を切り出した——





　
それがまさかあんな事になろうとは、このとき誰一人予測していなかったのである。