随分と面白い連中と一緒に、一揆に参加する事になった。
ミクネにアルコルにステファニー……人間二人にコカトリス一羽（？）に竜一頭……か。
何だな、凄い個性的な取り合わせっていうか…まずこんな組み合わせそうそう無いぜ？
こりゃ帰ってから土産話のネタには事欠きそうもねぇとはひっそり思う所だ。


そういや、このメンツで移動を開始して早速魔物っぽいものに襲われた。
どうやら野良のエンブリオも混じってたみたいだな。
初連携でどうなる事かと思ったものだが何とか撃退出来たようでホッとしたぜ。

しかし……狩人に術師に銃使い、とどうにも近接系が心許ないな。
ステフは確かに強いが、アイツ一人に前を任せていたら何時か潰れちまうんじゃないかと心配になる。
こりゃ早急に対応が必要かもしれねぇな……。
俺もそう強い方じゃないし頑強でもないが、…壁ぐらいにはなれるもんかね？

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　庭園は続く。
　歩いても歩いても見渡す先はだだっ広い平原が延々と続いてる光景だ。ま、たまにオブジェやら植え込みやら何やら、庭園らしい代物もチラホラあったりするけれどな。それにしたって広すぎる気もするのは気のせいか。代わり映えは幾らかしても基本的なものは変わらないわけで、正直少々退屈では在る。

　これが何時の時代の王の指示で作られた間取り（…っていうのも変か？　建物の中というワケでもないしな）なのかは知らないが、少々こだわりにかけてる気がしないではない。やたらと空間の広さで威圧感を醸し出してきては居るけれどもな……それとも、これだけの物を用意できる権力やら何やらの誇示というヤツだろうかね？　お偉い人の考えることは正直良くわからん。

　どうせならもっとこう……面白みのある物を置くとかすりゃあイイのにな。生き物を放し飼いしてみるとか。いや、既に何かアメーバやらケット・シーやらには襲われたけどな…そういう危険生物じゃなくてさ。もっと癒されるヤツ。ひよことか。可愛いよな。ウマそうだし。……いや、今のはなんでもないぞ。
　っていうか、何でそんな明らかにヤバゲな奴らを放置してるんだ。一応王の管理する敷地内だろうがよ！？　それともそういうのを放し飼いするのが最近のトレンドなのか！？　……一揆起こされる様な独裁やっちゃう権力者は格が違うぜ、色んな意味でな…呆れるしかねぇけど。


　そういやケット・シーで思い出したが、俺らを襲ってきたヤツのうちの一匹を仲間に引き入れることに成功した。といっても、エンブリオ契約して……って形だけどな。結構小柄なヤツで、普通の猫ぐらいの大きさのヤツだ。黒い毛並みの猫に良く似ている。
　にしても、ネクターをルリアンナやラルフがくれたのはこういう自体を想定してのモノだったって事か？　抜け目ねぇな。流石というか何というか。

　もふもふしていじり甲斐はある。ついついブラッシングしたり撫でたりしたくなる手触りの良い毛並みが気に入ってるのはここだけの話だ。一応契約したやつだしケット・シーって呼ぶのは人間相手に「おい人間」って呼びかける様なもんだし無粋だよな、って事で小一時間程度考えた上で名前をつけてやった。
　『アイルーロス』……どこぞの言葉で、「猫」って意味だった様な。まあ外見猫みたいなもんだし問題無いだろ。うん。気に入ったのかウニャウニャ言ってたしな。だからって俺の頭の上に乗るのは止めろ。エアリエルも一緒になって乗ってくんな。俺の首がヤバイ。マッハでヤバイから。

　……肩こりになるのは時間の問題かね…こりゃあ……？

　そういや多少同行メンバーと雑談を交わすようになった。

　幾らか打ち解けてきた証拠ってやつかね。何にせよ交流を深めるのは悪いコトじゃない。



　例えばミクネだな。
　何時も先頭を行く元気娘だ。一応このメンツに声かけて回って仲間に引き入れちまう程度に行動派で快活かつ社交的な奴だな。独特の喋り方をするが、これは癖なんだろうか…？　あの語尾の「ッス」とかな。若さが有り余ってるぜー…ってのを言外に体現して見せてるとも言うか。

　一緒に連れ歩いてる狼は『フレアサンダー』とかいうらしい。ただの狼にしちゃあ随分と大仰な名前だと思っていたら、人間の言葉で喋りだすものだから流石にビビったけどな。いや、竜の俺が言うのもおかしいかもだけどさ……でもやっぱりびっくりするだろ。どう見ても普通にケモノケモノしてたから、しゃべるとか予想外過ぎてだな……。
　話してみると結構男前な旦那だぜありゃ。ミクネより数段しっかりしてるんじゃねぇのか？　歴戦の戦士的な雰囲気がバリバリしてくるぜ。玄人チックっていうかな。てっきり初見は狩人娘とそのペット兼相棒…程度に思ってたが、どうもこりゃ違ったらしい。

　ミクネ曰く「師匠みたいなもの」とか何とか。
　狼を師に持つ娘、ね……狼少女ってか？　ちょっと違うか。



　アルコルは、何というのか……マイペースな女だ。
　自分の時間を生きてるというか、周りとちょっと違う時間を生きてるというか……何にせよ変わった奴だよ。悪いやつじゃないけどな。妙な所で天然っていうか、結構しっかりしてそうに見えて唐突に変なこと言ったりとかな。ツッコミが追いつかん。ツッコんでも首傾げたりしてくるんだから相当だぜアレ。面白いがさ。
　全身黒尽くめって感じな上に髪も黒いしやたら肌色が浮いて見えるんで夜中に見かけたら悲鳴を上げる自信がある。肝が小さいとか言うんじゃねぇぞ…ホラーとか苦手何だよ！　考えただけで甲殻が逆立つみたいなゾワゾワした気分になるぜ……やれやれ。

　そういや、チラッと聞いた話では人探しをしているらしい。
　たまに見かける他の一揆の面々にも声掛けして回ってるが、どうも幸先は芳しくない様子だな。とはいえ仕方ないとも言えるのかもだが。だってなぁ……この一揆騒動、参加してるメンツは軽く二千人超えてるって話だ。しかもそれも随時増えてる状況と来た。その中でたった一人、目的の人物を見つけ出すことの難しさときたら……想像するだけで気が遠くなるぜ。

　でもそうまでして、こうして危険な目に遭ってでも再会したい程に大切な相手……って事なんだろうな。
　……ま、何だ…多少は手伝ってやるかね。暇な時にでも。一人が二人になったからって劇的に変わるもんじゃないだろうが、それにしたってたった一人でやるよりはマシになる…筈だ。多分。……多分だぜ？



　ステファニーは……とりあえずコカトリスなんだろうな。自己申請を信じるなら。
　強気系姉御、みたいな雰囲気のやつだなというのが会話してて感じた印象かね。下手な男よりありゃあ男気とかそういうものが揃ってそうだぜ…気の強い女独特のオーラがビンビン伝わってくる。俺の妹も大概男勝りなヤツだが、そういうのとは方向性の違う男前っぷりっつーか……うん、敵には回したくねぇ。

　戦闘でも前線でガッツンガッツンやってたぜ。爽快なぐらいに。
　身一つで渡り歩いてる辺り、そりゃ強さに自信はあるんだろうがあそこまでとはな……特に豪快なのは蹴り技だ。豪速とも言える勢いで蹴りつける姿は、猛禽類すら彷彿とさせる迫力がある。アメーバもケット・シーも豪快に蹴り飛ばされてたしな……くわばらくわばら。

　こんだけスゲェ感じの女（なんだよな？　未だにちょっと不安になる）なんだが、それでも女らしさは失ってないって辺りが賞賛に値するというか何というのか。面白いやつだと思うよ。至極な。アレだけ自身持って生きてる奴は活き活きとして輝いて見えるってもんさ。見てる分には楽しいもんだぜそういうのも。
　……巻き込まれたら何か、首根っこ掴んで引きずっていかれそうな悪寒がするんだけどもな。



　相手のことを聞きつつ、俺もまあ、チラホラ色々話しながら歩いたもんだ。
　こんだけ広い場所だしな。やる事がなければそりゃ会話でもしないと退屈ってもんだろ。無言でずっと歩きっぱなしってのも精神的に苦痛というか。それにコミュニケーションをとるのは悪いコトじゃないしな。お互いを多少知ってれば、それなりの対応もしていけるし連携だってスムーズになるかもしれない…だろ？

　内容は旅の目的の話だったりとか、何で一揆に参加するようになったのか……とか。
　そういう当たり障りの無い部分をさらっと流す程度だったが、暇つぶし程度にはなったんじゃないのかね。

　こんな感じで王城への道を一路向かってる、というワケだ。

　代わり映えのない景色は退屈っちゃ退屈だが、足元は悪くないんで疲れが溜まり難いのはありがたいもんだな。

　——…もっとも、ピクニックに来てるってワケじゃねぇ。
　場所が場所なんだ、安全というのとは程遠いのは言うまでも無い訳で。

　視線の先には、多分王に仕えているヤツなのだろう。

　黒の鎧に身を包んだ兵士が立ちふさがっていた。武器を手にやる気満々の臨戦態勢だ。

　正直面倒は避けたい所なんだがね……こればっかりは仕方ないか。
　邪魔者はそれなりに排除しないと、後で面倒なことになりかねない。


　俺は肩を落とし息をついて苦く笑う。
　覚悟は決まっているんだ。今更何を迷う必要があるっていうんだ。

　そんな軽口をひとつ叩きつつ、俺もまた武器を構えた。

　さぁて……とりあえずは無事に撃退できることを祈るとするかね？

確認するように青年は一同に問う。

さすがにソレばかりは運次第でもあろうが、と肩を竦めつつ続ける。

とはいえ、と言葉を紡ぎつつ青年は苦笑する。