その狐（ひと）は尾は7本、いや8本、9本あったかもしれません。
目がくらむような白い毛並みをもって、やさしく声をかけてくれました。


尾の数はまるで木の年輪のように、年を重ね、力を蓄えれば蓄えるほどに大きく太く数も増えます。
そのひとが、どれだけの夜を超えてきたのか、見当もつかないし、きいたこともなかったけれど、その目と言葉は、常に何か別のものを見ているような、そんなひとでした。


ひとを化かす、姿を変えるといったやり方は全部そのひとに教わり、色々なことをききました。王をたぶらかして国を乗っ取ったひとの話や、どこかの島には狐がいないという話、たぬきとかいう連中の話とか、人間に恩返ししようとしたら撃たれた、なんていう教訓のような話。


ある時、そのひとは姿を見せなくなりました。
突然、まるで化かされたかのように。
残されたひとつの鏡と、この記憶に残る姿だけが、あのひとの存在を支えるものとなりました。


（あれから大分たちますけど、コルリは少しでも近づけましたかね…）


振り向いて、９つにわかれた尻尾を見ては、やはりあのひととは大分違うな、と心の中でため息をひとつ。


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（回想は負けフラグ）

声のした方へと向き直り、憮然とした表情でコルリの姿を見下ろす。
その大きな耳と豊かな尻尾に視線を配りながら、尻尾の数を数えるように瞳を動かしている。

身体が大きい、と言われ一瞬きょとんとした表情。
両手を胸元に当てながら、己の足元から視線を上らせ、その言葉を再確認しようとする。

やれやれ、と言った風に大きく息を吐く。

それから少女を見て、

一言、そう問うた。