主に使えてはいないので、兵士ではない。また、金で一時的に雇われているというわけでもない。単なる戦士かと問われると、それもまた違うと思う。なぜなら、自分は、もともと畑を耕していたからだ。獣を狩ることもあれば、魚を獲ることもある。それでは、いったい、自分を何と言い表せるかといえば、適当な言葉に心当たりはなく、なんとも半端なものだ。自分以外の誰かから見れば、これだ、という言葉があるのかもしれないが、自分にしてみれば、どの言葉も相応しくない。雪嶺の背で揺られながら、そんなことを考えていた。すると、ふと、叛徒、という言葉が出てきた。文字通り、反乱を起こした者という意味である。真っ先に出てきてもいいほど、単純な答えだ。少なくとも、今まで考えた言葉の内では、最も腑に落ちる。自分が王に反旗を翻しているという思いは、実は、自分の中では意外にも薄いものだったようだ。それより、戦いのことだった。戦いでは、レンツとカメルが前衛を務めている。ぴかという、これは一体どのような生物か分からぬやつが、後衛にいる。戦い方は単純で、前衛で敵を食い止め、後衛が支援するという形である。洗練されているといっていい単純さだ。そこに、自分は、中衛としている。遊撃の位置だ。攻撃に参加することもあるが、単に支援することもある。仮に前衛が突破されると最も危険な位置だが、そういうときは、どうにもならなくなっているだろう。得物が槍であるゆえ、後衛の位置からは攻撃が届かぬし、前衛にいては、雪嶺が邪魔になる。雪嶺を降りれば、前衛でも戦えるが、今のところは、中衛を務めた方が、隊全体にとって利便である。戦いに関することで考えることは多くあり、多岐にわたる。しかし、それを隊全体で共有するのは、不可能だ。必要なときに述べるのみで、普段は、ただ思索して選択肢を広げる。考えていれば、いざというときにでも動ける。いざというときに動けないやつもいるが、自分はそうではない。良し悪しではなく、特質なのだ。そう、特質だ。叛徒という言葉を思いつかなかったことも、中衛という遊撃の位置にいることも、特質がゆえに違いなかった。中庸である、というのか。戦士にも民にもなりきれぬ自分は、前衛で戦うことも後衛で戦うこともままならぬ、ということだ。やはり、良し悪しではない。なら、今できることを精一杯、こなすしかない。いつでも、そうしなければならない。それを確認できただけでも、考えた価値はあった。
　戦いが続くと、やはり、具足や軍袍のほつれが目立つ。修繕を重ねる度に、脆くなり、増えていくのだ。ある程度で替えなければなければならない。そろそろ、頃合いかもしれなかった。