Halshuggning - 2 -

その鋭さで、この首を斬り落とさんばかりの視線。
避けるように、地に伏せた視線。
交わることの無き二つの視線は、今思えばあの人とのその後の関係を象徴していたのかもしれません。


あの視線を一度、僕はもっと昔に感じたことがある。
それは、ああ、あの処刑台の上で。


それが、二度目のあの人との出会いでした。
再会という言葉を使うのは不適切な程に、お互いがお互いのことを何か別のおぞましい生き物だと思っている、そんな二人の遭遇。
質は違えども、二人の顔には嫌悪感がありありと浮かびあがっていた事でしょう。


無邪気に野山を駆け巡っていたあの頃。
こんな未来があるなんて、思ってもいなかった。


それからあの人は、父親に一つの願い事をしたようです。
僕のことを自由に扱う権利を。
そして、僕の父は即座に申し入れへと返事をしました。
仰せの通りに、と。


小さな頃から言い聞かされてきたんだ。
決して、逆らうことなどできなかった。



最初は、罵声を放たれるだけでした。
成長するにつれ外での振る舞いに粗暴さが溢れ、しだいに暴力を振るわれるようになります。
そして、最終的には僕の仕事の領分にまで手を回してくる様になりました。
人の命をも弄び始めたのです。
僕を苦しめるためだけに。


粗野ではあった。
遠くへと無理に連れ出すような、強引さ。
だけど、僕はその強引さも少しだけ好ましく思ってもいた。
そんな記憶ももう霞んでしまってはいるのだけど。


メルンテーゼの大規模な一揆に参加すること、そして黄金郷cadaieを探索すること。
ある日、唐突に告げられました。
一揆に関しては僕としては本当にどうでもいいことであったので、面倒なことにまた巻き込まれた、程度の感想しかありませんでした。
問題なのは、黄金郷cadaieの探索です。
この人は子供か老いさらばえた老人ぐらいしか信じていないようなお伽話を真に受けて。
そんなものが本当にあるのならば……いえ、なんでもありません。
両親、特に母親を失ったあの日に、正気すらも失ってしまったのではなかろうか。そんな疑いを抱いたりもしました。
私がその供に選ばれたのはおそらく、何かの時に使い捨てにできるコマが欲しかったのでしょう。
そして、我が忌まわしきシュタイネック家に古くから伝わるコイン。
黄金郷へ至るための鍵の、二人目の所有者であったからなのでしょう。


子供の頃に聞いたお伽話。
幼心には、その存在を信じていたりもしたけれども。


Grigori Dmitrievich Razin
Razin領の次期領主であり、僕の人生を捻じ曲げた男。

前回、生き物を手にかけてしまったせいで若干テンションが低いようだ。

いつの間に現れたのか、カミユの背後に張り付いた天使が樹里のことをじっと見ている。

背後の天使に気づいているのかいないのか、特に気にした風もなく、
カミユは樹里から視線を外し、グレイマンとクリストファーの様子を気にしている。

言葉が通じない生活に少し慣れてきた、とはいえ。
流石に二人きりで気まずいのはこちらも同じらしい。
表情がやや曇り始めた頃に、不意にかけられた声に、は、と顔をあげる。

何、を言っているのかわからない為、はじめこそ表情は晴れなかったものの、投げて渡された石を慌てながら何とか両手でキャッチ。
……反射神経、運動神経の類は、あまりよくないらしい。
受け取れた事に、ほっとするように息を吐いた。

手のひらのなかのものをじっと眺めながら、相手の言った言葉を呟く。
PSを返し、今度は手渡された果実。
意味わからないのか、首を捻って、両手で赤い果実を抱くように握りながら。

これもそうなのか、と首をかしげた。わかってない。

（投げられた果実を受け取ろうとするが、指は果実をはじいてしまう。
取り落とした果実を犬のように慌てて追いかける）

もぞり、と布団が動き、グリゴリは緩慢に上体を起こした。
しばらくそのままじっとして、クリストファーの話を大人しく聞いているように見えたが、ベッドの側に相手が来ると、服を掴んで引き寄せ、バランスを崩した所を床に叩きつける。

のろのろとベッドから降りて、再びクリストファーの襟元を両手で掴む。
が、今度は立たせるだけに留めた。

襟から片手は離さずに顔を殴る。

怒鳴りながら殴り、最後にクリストファーを床に叩きつけ、頭を踏む。

▼ぶつぶつと呟いている……

▼白黒の少女は、貴方の姿を認めると小さく会釈をした

ヒュッ　　シュカッ
服の一部を針状にし投げられた果実を反射的に射抜く

くんくん

クリスのほうをまじまじと見つめる

小さな人形が近付いてくるのを見てきょとんとしていた。
一礼には会釈して挨拶を返す。

持ち上げられた人形の先を見上げた。問われた質問には首を横に振った。

リレッタは挨拶に応えたクリスに笑みを浮かべるが、

「それならお断りします。」

その言葉を聞いた時も軽く肩を落としただけだった。

そのままリレッタが歩き出そうと考えた時、
人形が出て会話を促すのを見るとやや驚いた表情を見せた。

が、溜息をつくのを見て手短に済ませることにした。

小さな人形と目線を合わせるために、腰を下ろして語りかける。
その口調はというと、明らかに迷子のような何かに対するものであった。
すると、ふい、と突然人形が視界から消える。
見上げると、そこにいたのは青髪の人物。

どうやら後ろに回り込んだことには気付いていないようだ。
首を傾げながら前を向き直ると、やってきた人影にあら、と小さく声を上げ、

……何故か、カバンから声が聞こえた。

ぱし、と軽い音を立てて放られた果実を手のひらで受ける。
それを少し眺めたのち、クリストファーの言葉に、ふと顔を上げる。

自然と声を荒げてしまったことをやや恥じる様子で、視線を手の中の赤い果実に落とす。

動いて喋る人形に瞠目しつつも、会話に応じるべく、身をかがめる。

そんな会話を続けていると、ふいに人形が宙へと浮……
否、新たに現れた人物によって持ち上げられた。
ついで視線をその人物へと移す。

　突然声をかけられて人見知りでもしたのか、お人形君が私の後ろに回った。そこに先客が居たのでぎょっとしたみたいだったけど、一度移動したのにもう一度移動するのもそれはそれで億劫なのか、お人形君は居心地悪そうに４０cmほどのかわいいお人形さんと、今来たその男性を見比べている。

　図らずも青年から二人のお人形を守ってるみたいになってしまって、私は「どうしましょう？」と青年に視線を向けた。

いつもの。と、投げ渡された布袋を左手で受け取る。

視線に肩を竦めて返す。振って見せる煙草を挟む指は枯れ木のようにごわつき、
弛んだ皮膚に、心臓が止まった死人のような肌色をしている。

どちらでも構わないように、或いは同列と見るように、
受け取った布袋の中を軽く覗く。

ぼやくように煙と共に吐き出す言葉には、主語が無い。
曖昧に暈された言葉が煙のように、ゆっくりと間にほどけて消えた。

あんたの身柄がどう扱われるにせよ。とまでは口にしないまま、
足先から顔までを、先の返しのように男は眺めやった。

突然の御機嫌ようの声、やってきたのは小さな子供……じゃない、動く人形だ。
目を瞠って現状を把握しようとしている内に、人形は自分の背後に隠れてしまって。

そしてやってきたのは、自分よりも大きな、

少女の言葉を遮って、うさぎのような、熊のようなエンブリオが、ふわふわと宙に浮かびながらそう答えた。

放られた赤い果実。
獣はそれを唯目で追い続けた。
頭にそれが正面衝突するまで、ずっと。

ごつん。

ぶわっ、と全身の毛が逆立ち両の脚をつっぱる。
——その儘体重が後ろへと逃げる。
"竜種"は間抜けにもぺたんと尻餅を打って、固まった。
たっぷりと硬直した侭に時間を浪費してから——
漸くのそのそと座り直して、激突したあと地面に転がった果実に鼻先を寄せた。

少し前までぴーんと張られていた尻尾が、今度はご機嫌な様子で左右にゆらゆらと振れた。
‥放られた事に対する困惑や憤慨などは感じられない。

青い髪をした長耳の男？が少女に問いかけ少女は答える

そういった少女はまるで値踏みするかのように男を見上げ

そう言った

ぶんぶんと両手を振って、笑顔で否定する

顔は笑顔を保ったままだが、軽く挙動不審だ…

ただの愚痴なような、そうでもないような。
微妙に判断の分かれそうな話を微笑を浮かべたまま続ける。

この後どうしたものか…と考えるまでもなく。
まずは人形と従者の自己紹介を笑顔で見つめ。

名前が言い難いのか、若干噛みながらクリスティーナへと問う。

とてとてと人形が歩いてきたと思いきやご丁寧に挨拶まで交わしてきた。

———すごい、都会では人形も動いたり言葉を交わしたりできるのか。

はぇ〜と感心してるうちに人形がふっと姿を消してしまったかと思うと、今度は少し長身の耳長の人物が現れた。

「最近のお人形さんはすごいんですねぇ〜」とのんきな笑顔で手を合わせてると、どうやら後ろで隠れてる何かがちらりとはみ出している。

礼をする人形におじぎを返そうとしたが、
後ろに回り込まれてきょとんと眼を瞬かせる。

そこに、青年がやって来て人形のことを聞かれると、
あらっと微笑んだ。

その背後では、メルメルのエプロンワンピースの陰に隠れた少女人形の動きに、
ハニワ型ゴレムの頭の上に陣取っていたケット・シーが、
うずうずとお尻を持ち上げて臨戦(おあそび)態勢にうつっている。