報告書No.01

現在地『星屑の小川』、進行度1.

正午の段階で、接触者、ラルフとルリアンナとの会話により、
"ネクター"と呼ばれる、赤い花を頂く為の試験戦闘に臨みました。

結果は当方の勝利、先の会話通り、ネクターの入手に成功。
当世界において、ネクターはエンブリオという、精霊の様な存在との、
契約に使用されている様です。

又、非常に高純度のマナを豊富に内包しており、当世界と、
相当密接な関係性に有ると思われます。
今回、『一揆』と呼ばれる、一種の暴動が発生した主要原因も、
"ネクター"に存在するのだそうですが、詳細は不明。
引き続き、調査を続行します。

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何処かの世界、少しばかり辛気臭い地下施設。
先の、バグ修正に際して、缶詰作業に明け暮れていた2つの影。
なんとか、仕事を片付けて、暫し後。

再び送られてきた、報告書に目を通す。

「今回は、トラブルは無かった様だね」

長髪眼鏡が、記録を研究機器に打ち込みながら、口を開く。
それを聞けば、クルリと回転椅子に座っていた金髪が振り返る。

「そうだな。取り合えず、気になる言葉は"ネクター"程度か？」

形状は植物、というか、赤い花。
霊草や神草と言った類のものなのかもねって、二人が話す。
モノとしては大して珍しいものではない、他の世界、自分達の世界にも、
そういう類の植物は存在している。

けれど、話からして相当、重要度が高いのは間違いないな。
両人とも、似たような見解らしく、報告書に目を落とす金髪の言葉を、
長髪眼鏡が追って行く。

「うん、なにか特殊なモノみたいだね」

「ま、兎にも角にも追加報告待ちにゃ、変わりねえ」

何れは、情報で一杯に成るだろうアーカイブも今はまだ、スカスカ。
世界探索は始まったばかり、二人の研究者は、期待の眼差しを、
レンガの天井越しに、見えない空の彼方へと向けた。

——異世界に居る、かの珍妙に送るかの様に。

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水辺で有るとか、環境が良いとか、周囲の人物分布で有るとか、調べる事は沢山ある。
例えば、探査用ナノマシンを放出するとか、所持物質のサンプリングであるとか。
ジョルトの日常は、正しく始まったばかりである。

こんな見た目とは言え、生まれて間もないのだ。
1週間程前は、まだ培養槽に居た気がする、と、記録アーカイブを当人がなぞる程度には。
だから、彼？の口から出る言葉はこうなのである。

「見る物全てが新鮮ですね・・・」

と、お上りさん全開。
王城前で発揮されていた不審者振りは、相変わらず。
鶴の一声的に、所属パーティは決まったものの、アチラコチラへと目線を走らせる様は、
実に落ち着きがなく、周りの人々の目には映っている事だろう。

しかし、当人はと言えばどこ吹く風、目下の興味は水面から顔だけを覗かせている対象で。

「ネクターとの親和性を計測するに、先ほどから此方を伺っている生物は・・・」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　"エンブリオ"

そう、当りを付けたのだろう、アメジストの瞳が瞬かれた。
視界に収まった瞬間から始まる計測、それは、誰に教わったわけでは無いにしろ、
ジョルトの内に、プログラムされた行為だ。
講師が居るとすれば、作成者二人だろう。

《基礎DATABASE展開、対象をScanning開始——解析結果を検索、検索結果を提示します》
「・・・・・・マーメイド、やはり、ネクターが目当てなのでしょうか？
　　　　　　　　　　　　　　　　　——契約出来る様なら、してみるのも一興・・・か」

新しいデータが、手に入りそうだ。
小さく、しかし、それは一昨日よりは遥かに流暢に彼の顔へと現れた。
本人が自覚しているか否かは兎も角として、人はその表情を、『ほくそ笑む』と形容する。
調べることも、やることも目白押し、ジョルトは、その状況を如何に評価するのか。
少なくとも、この段階において、何か感想を抱いた様な素振りは、

——まだ、ない。