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ひとまず、どうやら"イース"は戦えない訳ではないらしい。
戦闘力自体は素を考えたら子供が戯れる程度のものだったけれど。
どうやら敵意などの所謂戦闘意欲などに呼応しているようだ。
‥曲がりなりにも自衛行動はなんとか取れるということだろうか。
勿論経験の類は殆ど機能していないようではある。
攻撃に対して無意識に身を逸らすことはあっても急所を庇うことすらない。
相手の見目から行動や戦術を推測したりとか、そこの齟齬を埋めていったりとか、
‥このあたりはそういえば前に話したらめんどくさい！って一蹴されたんだったか。
まあ、ともかく。
今のあれの戦い方は竜の幼子が覚えたての息だけで無理に狩りをしようとしているとか、
ヒトの子が拳を握りしめて腕ごと回してるとかそういう段階に毛が生えた程度の話だ。
それでもなんだかんだで形になってしまっているのは不幸中の幸いではあるが——
‥‥‥。
そういえばあれと模擬戦だの喧嘩だのをやって勝ったのって数える程しかなかったな。
記憶や経験といった情報に頼らない、そういう感覚やセンスのようなものはまだ生きているのかもしれないな。
‥視覚や嗅覚などで受理するモノは"イース"が表にいる間でも此方には伝わってきているけれど、
直感、思考など内面に関しては共有出来ていないので行動から想像で補うしかない。
なんだかんだでぼくはまだ現状を満足に把握しているとは云えないのだ。
そういう意味でも、何らかの接触により逐一その反応を伺うことが出来るというのは有難い。
最後にどのような形で着地するのかはまだまったく見当もつかないけれど、
そこを少しでもまともな方向に漕ぎ寄せるならば兎に角早く拾えるものは拾い尽くさなくてはならない。
今こうやって在るだけでも事態が後転していないと断じることはできないのだ。
‥どんな形でも、最悪からいくらか脱線できるなら。
できるなら——。

‥まあ前向きな解釈ばかりになるのも楽観的に過ぎるというものだが、後ろ向きに行き過ぎるのも下手か。
考えておかなければならない事案はこればかりではないし。
‥‥ひとまず"イース"が巻き込まれに行った事案の方をちょっと整理しておこうかな。
結論から言えば、この世界を渡っていくには必要なコトであったとは思う。
いまこの世界では王の暴虐に対する不満が随分と積もり積もっているのだそうだ。
曲がった解釈をするとどうやら米だの水だのといった生活に不可欠なものを断たれた状態にある、ようだ。
此処に来てまだそう日が経っていないし話だってその限りではない。
序でに此方から話を振れる環境にもないから、具体に何がどう欠かせないのかはぴんとこないけれど。
まあ、生活必需のものでなくとも、ヒトは奢侈剤を絶たれても団体で怒るいきものだ。
酒や煙草の類などはその最たるといったところだろう。
結局のところそれを招くもヒトで打破するのもヒトというのは結構昔から続く習性だと思う。
小さいコトでも大きいコトでもそうだ。
ある意味伝統である、と表現してもいいその仕組みに竜種のぼくらが首を突っ込んでいいのかは少し悩んだけれど、
地を駆ける馬やヒトを盲信する犬の類を筆頭に使われるいきものは数多いるのだしそれは杞憂というものだろうということにした。
良い悪いはともかくとして、刺激を増やすという意味では多くのヒトとすれ違う環境は望ましくはある。
どのように転んだとしてもそれは貴重な情報だ。
すぐに足抜け出来るかどうかはわからないけれど、それはぼくが首を突っ込んだ方の事案とて同じことだ。

思ったよりまともではない。
"イース"の方は案外気に入っているようだが、此処の首魁からしてそうだ。
あれは仏頂面かと思いきや、常日頃から虫の居所が悪く些事でも噴火しかねない。
恐怖、畏怖による統率を図るにしてもあれは下手ではないだろうか？
‥意図せず素が出てしまっているとするならばそれはそれで困った話だ。
何処を、何を目指しているかは‥。‥いや、あまりこの段階で推測しても仕方ないか。
凝り固まった対人認知は無用な壁を招きかねない。
その隣を歩くはあからさまに女の匂いを撒きつつも男を繕う娘。
‥鉄の匂いは面子の中でとても濃い方だと思う。
だからどうだ、というところまでは無論いかないが。
そして、その二人にべったりとくっつく‥否、媚び諂う犬。‥を繕うた、ヒト。
はじめに見たときには肉体と魂に食い違いでもあるのかと思ったがどうもそういう訳ではないらしい。
心の底から犬になりきっているのか、それとも犬であるのか。
よくわからない。けれど、‥
まあ近づきたくない部類のヒトではある。幸い、あちらさんもヒトではないぼくらには興味がないようなので渡りに舟だけど。

これまでに出逢ってきたヒトもそれぞれ癖が強かったりはしたけれどそれとは根本的に違う匂いがする。
何処を見てもクセのあるというか、一筋縄ではいかないだろうなというか。
‥安易に探られてはいけないというか。

‥此処までいくと我ながらヒト不信も行き過ぎているかなとは思うのだけれど。
はあ、とため息をひとつ付きそうな心持ちになる。
——実際にそれが形となってこぼれてしまったことで、ぼくは身体の主導権が移っていることに気がついた。
‥こんな風に道を歩いている時に急に代わるのははじめて、かな。
原因は探らなくてはならないけれど。
任意になる身体で探れることは探っておかなくちゃな、と思い。
何時の間にやら停止してしまっていた足を前に一歩、運んだところで。

前方でこの一行と、別動の誰かとの間で異変が起こっていることに気がついた。

言いながらクリストファーの髪を乱暴に掴んで引き寄せる。

突き飛ばすように、乱暴に解放する。

赤髪の青年は傍らの獣の様子を怪訝そうに見ていたが
言葉を投げかけられ、その意味を探るように相手の目を見た。

話しかけられた二人は相手の問いに対して？の顔を浮かべ

ブルーは珍しく少したじろいだ様子を見せた。

昔、えらく辛いものを食べたりしたなあ・・・元気かな？なんてこと思い出しつつ。

二人はあなたに対して嫌悪の感情は覚えてないが
相手が猫のように前肢を持ち上げたのを見てなんとなく察したのか、機械ことブルーは非常に不定期かつランダムに素早く動き始めた。少し警戒しているようだ。

おもむろに、赤い果実を放り投げ。