ラルフを相手にした腕試しで無事に認められた後、リナは改めて薄羽の少女と対峙した。

「ねえ…あなた、何者なの？」

薄羽の少女は、目を大きく瞬かせた後、明るくこう答えた。

「ボクはイーラ。キミが元の世界にいたときからずっと一緒にいて、加護を与えてきた炎の精霊だよ」

今度は、リナが目を瞬かせる番だった。

「精霊って…エルフの人達がいるって主張してて、実際エルフに加護を与えているっていう、あれ？」

呆気にとられるリナの言葉に、薄羽の少女…イーラは口を尖らせて

「人間って冷たいよね〜。理屈で説明出来れば、それ以外の部分は「余計なもの」として切り捨てちゃうんだもん。
…ま、見ての通りボク達はちゃーんと存在するよ。」

と言って、最後に満面の笑みを浮かべた。こうまで言われては、リナはその存在を肯定せざるを得なかった。
それでも、疑問は残る。

「…なるほどね…ま、いてくれた方がロマンがあって素敵よね。
………でも、人間にも加護を与えられるもんなの？」

「人間としては、かなり高い魔力がいるけどね。ほぼ純血の人間でも一応不可能じゃないよ。
…ただ、存在を認めてくれない存在に加護を与える物好きがいないかな」

あっけらかんとした回答に、リナが半ば呆れながら

「………あなたって、その物好きじゃないの？」

と問うと、イーラの目がきらりと輝いた。

「だってさ、エルフの社会ってつまんないんだよ。10年も100年もあそこじゃ大して違わないんだ。ずーっと変わらないんだよ。もう退屈しちゃってさ。
それなら、たとえ存在を感じてくれないとしても、見込みがあって面白そうな人間にくっついてた方が楽しそうだし。っていうか、実際楽しかったしね♪」

「………あ、そう………。」

まくしたてるイーラに、リナが若干気圧されながら相槌を打つと、再び虚空に声が響いた。



イーラとは違い、柔らかく空気に染み渡るような声である。
そして姿を現したのは、淡い金髪と緑色の瞳を持ち、月と同じ色をした薄羽が下を向くように生えた、人形サイズの少女だった。

「アンジニティは危険な世界ですのに…いつ最悪の事態が起こるか、冷や冷やしましたよ」

それなのに、イーラが止めるから…と溜息をついてみせる月色の少女。リナは立て続けに現れる未知の存在に唖然としながらも、何とか月色の少女に質問をする事が出来た。

「………えーっと、あなたは………？」

リナの問いに、月色の少女ははたと気づいたように目を瞬かせた後、柔らかくお辞儀をした。

「ああ、そういえばこうして言葉を交わすのは初めてでしたね…私はルシェーナ。アンジニティで誕生した、光と、雷を司る精霊です」

「アンジニティで…？」

驚いて目を瞬かせるリナに、ルシェーナは少し笑みを浮かべてみせた。

「アンジニティでも光の魔法は使えたでしょう…？貧しい世界ですけれど、精霊が存在しないわけではないんです。
あなたが、アンジニティの中で一際強い光を放っているように見えましたので…一目お会いしてから、加護を与えてきました」

「リナってボクに限らず精霊に好かれるんだね〜。あの世界の人間としては、すっごく貴重な才能だと思うよっ」

ルシェーナの言葉を受けて、イーラがからからと朗らかに笑う。
ルシェーナはその様子を少し疲れたように見ながら

「…それなら、「深刻な生命の危機までこちらからは干渉しない」という方針はどうかと思いますがね」

と釘を刺すが、イーラは

「え〜？ボクが干渉してリナの行動を決めつけちゃったらつまんないじゃん。
ボク達が見込むリナなら、ボク達が考えないような方法で切り抜ける、って信じなきゃ！」

もちろん、いざってときには守るし！と言って取り合う様子も無い。

「………」

リナは、深く溜息を吐く。見知らぬ世界に１人で迷い込んだ…と思い込んでいたが、そうではなかったようだ。
それはそれで心強いことではあるが…何とも、賑やかな事である。

「………私、元の世界に帰る前に、ここの人達の窮状、少しでも何とかしていきたいと思ってるの。
それなりに危険は伴うだろうけど…付き合ってくれる？」

リナは、それだけをイーラとルシェーナに問う。２人は、

「ボクがリナの決める事にケチつけるわけないじゃん♪」
「…いざという時には、私が守ります」

と、頷いた。