荒れ果てた大地を、一台の幌馬車が進んで行く。
どう見ても、ただの人間が乗っているとは思えない外観と雰囲気を持つその馬車の御者台では、一人の少女が手綱を引いている。

「実際にこの地域に来たのは初めてですけれど、想像以上に何もないところですわね。
一応城があるということは、街や集落などもあるのでしょうけど…。
そこに何か良い商品があることを期待するしかありませんわね。」
砂漠の品なら希少価値がついて高値で売れるかしら…と、少女＝ロゼは呟く。

「どうだかねー。なんか不自然に荒れてるし、街も集落も案外ここらと似たり寄ったりかもよ？」
ロゼの呟きに声を返したのは、馬車を引く一頭の黒い馬。
当然ただの馬ではなく、その正体はロゼと契約した闇の精霊である。

「あえて口に出さなかったことを言うのはやめて下さいまし。
…まあ、”表”の商売には不向きかもしれませんが、”裏”の商売には使える土地だということが分かっただけでも収穫ですわ。」

「あー、たしかに、盗賊とかならず者が隠れ住むには向いてるもんね。」
今、この馬車の荷台には、砂漠を根城としていた盗賊から奪った
盗品が所狭しと積まれている。
ロゼの”表”の商売は、実家であるデリジィ商会の、ごく普通の（？）卸売業等である。
しかし”裏”の商売は、彼女が独自で行う、賞金稼ぎ及び盗賊から奪った商品の転売である。

「ここには、他にもいくつか盗賊団がいらっしゃると聞きましたが…一先ず彼らは後回しにして、城を目指すことにしましょうか。
一揆に協力する以上、やるべきことはしなくては。」

「どうせ、城を落としつつ城内の品を盗むんでしょ？」
精霊の言葉には答えず、ロゼは扇子の下で静かに笑った。

怪しげな魔法陣を描いた銀細工や、分厚い本がいくつも載った広告をひらひらさせた。

切っ先の無い剣に掘り込まれたルーンが、赤く光った。