「一揆生活　△日目」

　森の中で出会った少女からこの世界の説明を受けて数日後。俺は王城前へと行くことにした。ここまで大々的な“お祭り騒ぎ”だ。姉の事について何か知っている人物が居るかもしれない。それどころか、この世界のネクターとやらは『花』の形をしている。自然を愛す姉だ、もしこの世界に居るなら確実に一揆に参加している事だろう。
　……しかし、どうにも懐かしい匂いがする場所だ、ここは。ふと、実家に居るだろう家族の事を、友人たちを思い出した。特に愚妹は元気にしているだろうか？最後に会った時には意味有り気にこちらを見ていたのが印象に残ってる。妙なことをたくらんでいるようだったが、さてはて。
　良き友人になれそうな人々も沢山居た。それにしても宿に泊まる前のあの出来事は結局どうするべきか……と、ここまで書いたところで少し眠くなってきた。今日はここまでとして寝るとしよう。
　………ああ、そういえば 一揆/お祭り　に参加する試験には余裕で合格できたことを記しておこう。紅月様々だな、まったく。
　
　
　
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　青年——風斬東は手に持っていたペンを置き、新品なのだろうか真新しく見える日記をパタンと閉じた。書き疲れたのか椅子に座ったまま腕をぐっと伸ばし、体をほぐしている。その行動が終わった後東はその場から立ち上がり己が居る部屋を何かを探すかのようにゆっくりと見渡している。部屋の中にはベッドが2つに、大きな机が1つ、簡易的なキッチンに、木でつくられたクローゼットが1つ。家具の一つ一つは急ごしらえで作られたのか、少しばかり粗さが目立つ。質素な部屋と言って差し支えは無いだろう。東は見渡すのを止め、香ばしいリンゴの匂いがするキッチンへ向かって歩き出す。発生源はキッチンの鍋の中にあるアップルティーの匂いだった。その真っ赤で甘酸っぱい匂いに満足したのか、一つ笑みを浮かべると東はあらかじめ温めていたカップの中にゆっくりとその液体を注ぐ。そのままカップを持って東はベッドへ向かった。
　ベッドの二つあるうちの一つの別途はすでに誰かが寝ているのだろうか、布団を被った丸い物体が陣取って居た。東はソレを確認すると歩みを止めその物体に対して声をかける。
　

　紅月と呼ばれたベッドの上に居る白い布団を被って丸まっている物体は、もぞりと少し動くだけで明確な反応を返してこなかった。東はやれやれと言った風に肩を動かすと、どこからか取り出したティーポットの中に紅茶を淹れ、トレイの上に2つのカップを載せてベッドへ向かう。ナイトテーブルにトレイを置き東は少し固いベッドに腰を掛け、紅茶に軽く口をつけた。
　
　——今日は、色々な人物と会った日だった。
　
　真っ赤で甘酸っぱい匂いがする紅茶が東の口から喉へと通る。舌の上で味を確かめているのか、いつもの不敵な笑みは消え少しばかり真面目な表情に切り替わっていた。……東が満足する味だったのだろうか。いつもの笑みより柔和に微笑むとそのまままた一口、紅茶に口を付けた。
　

　
　紅茶を飲む音が響く部屋で、東は一人何かをゆっくりと考えている。
　ゆらり、と部屋を照らしている炎が揺れた。
　

　まだお祭り気分が抜けていない五月蠅い外とは違い、かちゃんとソーサーの上にカップが置かれるその音はやけに部屋に響いた。カップに隠れ見ることは出来なかった東の口元は獲物を見つけた猛獣のように口角をつりあげていた。
　

　
　そう東は呟くと、隣のベッドで寝ている紅月を見つめる。そう、彼女を助けたのは東であり。それは己の意志で助けたのだ。決してそれは運命なんていうロマンティックなものではなく、言うならば王の道だったのであろう。
　
　
　
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　———暖かい。
　布団の中に丸まっている紅月と呼ばれた少女は、東の問いかけに体を揺らすだけで答えて、一人こっそりと目元を濡らしていた。

　彼女はいつも一人だった。エンブリオとして生まれた所までは良かったのだが周りに誰も居らず常に一人で生きてきた。そんな時にあの連中に見つかったのだ、忌々しいババアと槍を持ったヤンキーに。今、この世界の話題の主である王パラダイス派なのかは兎も角として、ネクターを狙って襲い掛かってきた。今から1週間前ぐらいの事だった。少女はただ只管逃げ続けていた。誰かが助けてくれるわけでもなく、途中あった旅人には見放され時には追いつかれ軽い戦闘が発生することもあった。それでも逃げ続けていた。——そしてついにあの森で追い詰められたのだ。少女はもう諦めていた、ソレは仕方がない事だろう。だがしかし、そんな折りに助けてくれたのは青年、東だった。空から羽を生やして舞い降りまるでそれは天使のようで一種幻想的な光景ですらあった。彼女は信じられなかったどうせまた見捨てられるとも思っていた、しかしその思いは裏切られ彼は助けてくれたのだ——東の身がボロボロになりながらも。
　
　正に絶対的な王者として相応しい風格に登場の仕方。しかし、彼はこの世界の摂理には未だ対応していなかったのだ。エンブリオとの契約はしていなく契約していないモノが契約者に叶うわけもなかった。特に彼は「龍種」だ。龍というのは世界であり方が変わってしまう。同じ世界の時代、場所ですら龍は竜とも良いドラゴンとも言う。二足歩行の龍も居れば蛇のような辰と言われる竜も居る。さらに不幸なことか彼はその龍種の影響を濃く受けてしまう性質だったらしい。要するに、全力を出し切れていなかったのだ。
　
　だから、彼女は契約した。風斬東と二度はない契約を。結果、彼は簡単に襲撃者を追い払いそのままこの世界の近状を彼女から聞き一揆に参加するようになったのだ。
　

　——うん、今日は上手く行けた……と思う。
　ラルフ、と呼ばれる試験官と戦ったことを思い出す、確りと技を出すことが出来た。相手はかなり手加減していたようで、実際の威力のほどは理解できないがそれでも肩慣らしにはちょうど良いと思えた。ゆっくりと紅月は瞼を閉じ、お昼頃に有ったことに思い馳せる。ラルフという人物に会うまでには一揆の参加者に会った。濃い人物も多く契約者の東も良く話しかけていた。まるで空が地上を見守り気に掛けるみたいに、彼にはそう思わせられる迫力と凄みを紅月は感じたのだった。
　
　——気に食わないわね……。
　紅月から見る東は主であり、王であった。そんな東に対し無礼なモノ言いをした少女が独り。ラルフとの戦いを終え宿屋へ行く道先で出会ったのだった。曰く、私の従者になれ——、と。東はその言葉に少し待ってくれと言い本当に愉快そうに笑いながらその場から離れ宿屋に向かった。紅月は怒り心頭で彼の背を追って行った。せっかく、せっかくいい気分だったのにと顔を髪の色のように真っ赤にさせ、手を握りしめて進む歩調は大きく一歩一歩進むさまは「私、不機嫌です」と言っているようなものだった。思い出してまた腹が立ってきたのか、先ほどまであった目尻の涙など何処かへ吹き飛んでおり、ほんのり感じていた眠気も吹き飛んでしまったのかもぞもぞもぞと丸い布団が激しく動き出した。
　

　東はその様子を見ると、あいているティーカップに紅茶を淹れる。一つ一つの動きに無駄は無く、幽雅なモノだった。紅月は小さく答えると布団をあげて起き上がり、東と対面するようにベッドに腰を掛けた。
　　
　ずずずっ
　　
　2人が静かに紅茶を飲む音だけが響き渡る。甘酸っぱくてフルーティーな匂いが部屋に漂う。東は満足げに黙々と飲み、紅月は妙にそわそわしている。最初に口火を切ったのは紅月だった。
　

　紅月は手元に持つカップに目をやりながら話を続ける。
　

　東のからかいを含めた返しにも何か思いつめたかのように、紅月は答えていく。手元にあったカップはもう、見ていなかった。その瞳で東を見つめ紅月ははっきりと宣言する。
　

　その声は震えて居た。声だけではない、全身が震えている。だが紅月は目をそらさず一字一句確りと理由を話していく。
　———おうさまが、わたしのおうさまが。そらのようなおうさまが。あんなあんなこむすめのはいかになんて、ぜったいにゆるせない。
　それだけが紅月の思いであり怒りであった。東は紅月の救世主だ、そんな人物が良くわからない人物にそんなことを言われてる様を見て、黙って居られるほど賢い相棒ではなかったのだ。そんな紅月の姿を東は微笑ましく見つめていた。
　

　東はそう言って紅月に手招きをした、恐る恐る紅月はその手招きに従い近寄るとひょいっと抱きかかえられ膝の上に乗せられた。恥ずかしそうに思わず顔伏せた紅月だが東は気にせずそのまま自らの従者を愛で、落ち着かせる。
　

　にやりと不敵な笑みを浮かべる東は、意地悪くそのまま紅月に尋ねた。貴様の主は、誰なのか、と。恥ずかしそうに俯きされるがままだった彼女は顔をあげる。東とがっちりと目を合わせると、にししっと東のような笑みを浮かべてこう答えた。
　

　くははは　にししし　静かだった寝室に響き渡るは、楽しそうに笑う2人の声であった。

　あなたの存在を認めた瞬間、目を丸くして驚く少年が一人。
　それもそのはず。少年とあなたは少し前に言葉を交わし、そして別れたばかりなのである。

　そう言うと少年は帽子を取って、ぺこりと頭を垂れる。黒く艷やかな髪が、ふわりと揺れた。

　

　虫も殺さないような、純朴そうな笑顔。
　しかし彼の全身からは、確かに血の匂い——そして、吸血鬼の匂いが漂っていた。

あなたの背後から少女の大声が降りかかります。
振り返るとそこには、いつか言葉を交わした少女が興味深そうにあなたを眺めていました。

あなたの姿を確認すると少女は恥ずかしそうに顔を伏せる。
自らの行いを振り返っているのだろう。

少女の表情は口調ほどではないが、わずかに変化が生じている。

そう言って少女は口端に笑みを浮かべる。

少女の口調は軽く流れる。

疑問は解けましたか？と少女は得意そうに笑みを浮かべる。

それでは、と別れを告げる少女。
そこでふと思い出したようにあなたに向き直る。

あなたの声に驚き、ばしゃんと音を立てて
川の中へそれは飛び込んだ。
ぷかりと顔だけ水面に出して、青年に向かい呟く。

そしてそれは姿を消した

貴方が歩いていると、不意に後ろから声をかけられる。

声をかけたのは、長身の戦闘用アンドロイド。
片手には大口径の銃を持っており、それを貴方に向けて構える。

あなたに声をかけられた黒髪の和服を着た女性。
積極的に自分に話しかける存在が珍しいと感じたらしく、一見気だるげのような、
しかしよく見れば興味深げだと分かる目をしながらじろじろと見ていた。

そして一拍置くと、うっすらと笑いながら続ける。

彼からの自己紹介を受ける際も興味津々に聞き取る。
そして着物の裾から何やら長い生物……生きた蛇を出し、それと何やら会話した様子を見せた後、再びあなたに向きを戻した。