都市

「なんだい、お嬢ちゃん」

「見かけによらずトンでもねぇこと言うなお嬢ちゃん。俺もお嬢ちゃんが可愛くなくて話しかけられなかったら近づきたくないぜ」

「違いねえ、お嬢ちゃんの言ってることは実はかなりボーダーだがほどんど正しいんだなコレが。
　アレはな、このごろ急激に勢力を増してる『ハピ粉』っつー新手のシャブらしい」

　精力も増すらしいぜ、げひゃひゃひゃひゃ！！　と男は下品に笑う。

「お嬢ちゃんにはまだ早ぇかな、ようするに『元気になるクスリ』みてぇなもんだな」

「真っ当な生活したきゃ、ハピ粉には手を出さない方がいいぜ」

「親切気取ってハピ粉のことを教えちまったが、お嬢ちゃんのような年頃の娘にゃさすがに勧められねぇなあ」

「……。
　酔狂（はぴ）ってるワケじゃなさそうだな。……いいだろう、お嬢ちゃんはシャバの人間じゃなさそうだし、ハピ粉中毒の人間が増え続けても困るしなあ」

　そういって男はハピ粉売りの少女の縄張りを教えてくれた。

　◇　◇　◇

　この時、エリーの頭から不審の文字は消え、代わりに打算が乗っ取った。

　こうして、この都市を一時期はぴはぴに陥れた最狂のバイヤーが誕生した。
　しかし、ハピ粉に依存症や禁断症状こそあれ、それは一定期間のものであり、二人が都市を離れてしばらくすると元の落ち着きを取り戻した。
　はぴ粉状態で犯罪や自殺したものはいなく、一部の人々は優秀な合法ドラッグを失ったと少しだけ悲しみ、そして次第に伝説のドラッグとして人々の記憶から失せていった。