Ｎの月　２の日。

反旗の集いの腕試しを早々に終わらせる。
あの程度で良しとするならば、この世界の生活も楽しくなりそうです。
ただ頂戴したネクターは極々僅か。
このネクターがこの世界の基本資源とするならば、
冒険者への期待がその程度なのか、王の独占が深刻なのか。
どちらでも良いことですが、
もしこれが貴重性ゆえのことならば私の到来した初日の出来事は神の祝福だったのでしょう。

この世界への到来初日は黄昏の頃。
今いる街から隣村へ向かう山道傍の林の中にゲートは開きました。
そして無事にたどり着けたことに安堵する時、幸運も訪れたのです。
それはちょうど隣村へ荷物を運搬しようとしていた青年でした。
突然開いたゲートの光に驚き、様子を見に来たようです。
最初は遠巻きに様子を伺っていましたが、やがて向こうから笑顔で話し掛けてきました。
反旗のため、異世界から人を招いていることを知っていたのだそうです。
きっと、彼にとって私は物珍しい存在だったのでしょう。
ですがどのような理由であれ、この世界の情報が不足していた私にとってもこの邂逅は喜ばしいものです。
私も微笑み、彼に挨拶を返し、その足にナイフを深く突き刺しました。
一拍遅れての清涼な悲鳴。
正に私をこの世界が歓迎してくれる福音です。
周囲には我々の他に誰もいないことはすでに確認していましたが、
じっくりと情報を教えていただくために彼を連れて林の中深く移動します。
その間も彼は暴れ、叫び、私を祝福してくれました。
安心できる距離を進んだ後、彼を木に強く縛ります。
最初は彼の言いたいことと私の聞きたいことに食い違いもありましたが、
彼の肌をナイフで撫で、身体に紅い線を引いてあげるうちにいろいろ教えてくれました。
実に親切な青年でした。
そしてその際に頂いたのが彼が運搬中だったネクターなのです。
その時はこれだけ、こんな花が何の役に立つのか疑問でした。
ですが最初のエンブリオとの契約を果たし、
腕試しで頂いた量を考えれば実に幸運だったと理解できます。

それから彼と別れたのは黎明時。
あの時は私もいささか興奮が過ぎたようです。
異世界へ渡り、久しぶりの獲物。
荷車と一緒に崖下へ転落させ隠蔽を行いましたが、
その遺体を少しでも正しく見ればすぐに事故で無い事が露見したでしょう。
ですが今に至るまで、彼は事故で亡くなったという情報しか聞いていません。
この幸運を神を感謝します。
ですが神は気紛れであることも私は知っています。
まだまだこの世界に慣れたわけでは無いのですから、
今しばらくは控えめな生活を送るように心掛けなければいけません。

フルートの音が聞こえる…