「それじゃあ、ここで待っているんだよ。荷物を届けてロク君のことを伝えたらまた来るからね。」


おしろのちかくにたどりついた猫は、農家のおじさんにつれられていっきのさんかしゃのきょてんまでやってきました。
でも、ここまでやってきたはいいものの、このあとなにをすればいいのかはわかりません。

そこでおじさんがかわりにそのてつづきをしてくれることになりました。
そのあいだ猫は、きゅうけいじょとしてたてらてたおおきなテントのなかでひとやすみしておじさんのようじがおわるのをまちます。

猫はおじさんのことばにすなおにこくりとうなずくと、手をふっておじさんを見おくりました。
おじさんに言われたとおりにおとなしく、ちかくのいすにすわっておじさんのかえりをまつようです。

が、だんだんとあきてきたのか、だらしなくあしをぶらぶらさせはじめました。


すると、そこへひとりのおんなのひとがやってきて、テントのなかを見わたしました。

どうやらだれかをさがしているようです。
でも、さがしびとはいなかったようですぐにきびすをかえしました。

そのようすをじっと見ていた猫でしたが、やがていすからおりておんなのひとのあとをひょこひょこついていきました。



猫がおじさんの言いつけをやぶってまでおんなのひとについていったそのわけは———
ふりかえるときにゆれたおんなのひとのみつあみが気になってついじゃれたくなったから、なんて口がさけても言えません。



おんなのひとをおいかけていくと、やがておおきなひろばにたどりつきました。
そこにはおおぜいのひとたちがあつまっています。
どうやらこれからここでなにかがあるようです。

でも、猫にとってそんなことはおかまいなし。
ついにおんなのひとにおいつくと、そのみつあみにとびつきました。


びっくりしたようすのおねえさんでしたが、にっこりとほほえむと猫にむかってはなしかけます。




「初めまして、私はルリアンナ。この一揆を影でサポートする参謀！ルリでもアンナでも、好きに呼んでね。
一揆に加勢してくれるのよね？ありがとうっ！！」



























あれよあれよというまになぜかちからだめしをすることになった猫。
でも、いっきにさんかしてみたい猫にとってはねがったりかなったりです。

それよりも猫はおんなのひと——ルリアンナさんがいっていたことが気になっていました。


「あら、エンブリオとはもう結んでいるのね。だったらまぁ大丈夫だと思うけど・・・・・」


もちろん猫にエンブリオとけいやくしたきおくはありませんし、みずうみで気がついてからずっとそれとわかるけはいもかんじたことはありませんでした。
しかし、猫はすでにエンブリオとけいやくしている、そう言いきったルリアンナさん。
猫ほんにんにもわからないことを見ぬいたルリアンナさんはいったいなにものなのでしょう？


とにかくルリアンナさんによばれてやってきた目のまえのおとこのひと——ラルフさんに猫のちからをみせなければいけません。

たたかいかたなどしっているわけはありませんでしたが、なんだがからだがうずうずします。
なまえのときにもあったふしぎなかんじに猫はおじさんのことばを思いだしました。


「そうか、多分その感覚に従った方が正解なんだろうね——」


猫はそのふしぎなかんじにみをまかせ、ラルフさんにたたかいをいどみました——



























そのけっか——ちからだめしはみごとごうかく。
猫ははれていっきにさんかをゆるされ、ネクターとふしぎなものをもらいました。

猫もニコニコまんぞくげです。
と、どこからかパチパチとはくしゅがきこえてきました。
おとのもとをたどると——そこにはおじさんがいました。

ギクリと猫はかたまってしまいます。
それもそのはず、おじさんとのやくそくをいまのいままですっかりわすれてしまっていたからです。


「やぁ、すごかったよ！ロク君は強いんだねぇ！」


おじさんは猫に近づくとわしゃわしゃとあたまをなでました。
猫はふあんげに目をしばたかせ、ボードにことばをつづります。


『…おこってないのです？』


「怒る？何をだい？」


『小生がやくそくをやぶったことなのです。』


おじさんはにこりとわらって


「そうだね。テントにもどってロク君がいなかったときはすごく心配したし、悲しかったよ。」


とつたえます。
しかし、すぐにこうもつけくわえました。


「でもね…君が無事で良かった。今はそう思うよ。」


とたんに猫はもうしわけなくなってしまい、ボードをほうりだしておじさんにしがみついてにゃあにゃあなきました。
そんな猫をやさしくみつめながらおじさんはそっと猫をなでます。




ひとしきりないたあと、ようやく猫もおちついておじさんからはなれます。
ボードをひろい、


『ごめんなさいなのです…』


とじしんなさげにもじをかきました。
おじさんは、


「もう良いんだよ。ただ、これからは気をつけようね。」


とやさしく猫をさとします。
猫もぶんぶんとたてにくびをふりました。


「でも、すぐにお別れになってしまうのかな。私はこれから帰らないといけないから。
ロク君はどうやら正式に一揆に参戦するみたいだし。」


つまり、おじさんとはここでおわかれということになります。


「さっきの戦いを見せてもらったけれど…ロク君なら大丈夫だろう。
でも、決して無理をしてはいけないよ。己の力を過信しては駄目だ。危険だと思ったらすぐに退くこと。なんせまだこんな小さいんだから。」


猫はおじさんとわかれなければいけないさびしさにふたたびなきだしそうなかおをしましたが、こんどこそおじさんの言ったことをまもろうとしんけんにきいています。


「…それじゃあ、そろそろ私は行くよ。また時々ここに来るからね。…ロク君も元気で。」












おじさんは荷車にのりこむと、きたみちをゆっくりともどっていきます。
おじさんのすがたがだんだんとちいさくなり、やがて見えなくなるまで——









猫はいつまでも、いつまでも手をふっていました。

ごきげんなようすでうたのようなものをうたっています。

と書かれたボードを手に持ちながらワクワクしたようにマーメイドを見ています。

と書かれたボードを手に持ってニコニコしています。

と書かれたボードを手に持ったままぺこりとあたまをさげました。