パラダイス王への叛逆の戦い。
それが、この世界における『一揆』というものだ。
ラルフと拳を交え、その力を認められて正式に一揆への参加を許可された魔異は、戦線へ赴く前に街の近くの丘を訪れていた。

「ここは、いい風が吹くな」

吹き付ける風が、髪を撫ぜる。
元の世界とは違うにおいと、やわらかさだ。

「……駄目だ。やっぱり、ルーフレンテの『エターナル・フォース・ブリザード』の力の影響が残ってる」

ラルフとの戦いで、魔異は焦りを感じていた。
瞳の魔性は、以前ほどの猛威を振るうことは無い。
今の自分では、この世界の一般的な兵士と戦うことさえ骨が折れることだろう。

「俺の、『探し物』、か——」

丘に寝そべり、空へ右手を伸ばす。
想起されるのは、街で出会った少女の言葉。
あの時自身の答えた言葉を反芻する。

「この世界へ迷い込んだことは、本当に偶然だったのか？」

だとしたら、何故ルーフレンテは此処にいない。何故俺だけが、此処を彷徨っている。
——俺は、この世界で、何かを探さなきゃいけないんじゃないか？

思考は巡る。

自分は、『紋章』を顕現させ、邪気眼の力を得て、カノッサ機関と戦い続けてきた。
しかしそれは全て、『カゼヨミ』の力によるものだ。たとえ自分でなくとも、『カゼヨミ』を得た者ならば、誰もが出来ただろう。
それこそ、逆説。今の自分では、元の世界へ戻ってもカノッサ機関の魔の手から人々を守ることなど出来はしない。

「そうだ。俺は、見つけなきゃいけない。そして、俺自身、強くならなくてはいけないんだ」

振りかえり、表情の薄い瞳がそちらを見て。
それはすぐに、柔和な微笑みにとって代わられた。

似ているようで別の星、あるいは世界の出身なのだろうか。
それでも、元素の世界の外から来た事には変わりはない。
同じ境遇にある人間と会えたのは、彼女も嬉しかったようで。
どことなく安堵したような、そんな表情を浮かべた。

彼の右目の異様に気付いたのか、しげしげと眺め始めた。

お気楽そうな思考回路を持っているらしい

　

　

目の前を通り過ぎるか、なんかしてるマコトをわざわざ呼び止めて。もうみんなと合流してるかな？

急に呼び止めておいてこの言い草である。
…どちらにせよマコトにはついていくのだが。

戸惑ってるようだ！

考えてるようだ…

何か思いついたようだ！

木の上にスズメがいる。
そのスズメは、しばらくこちらを眺めていたが、やがて頭の中にささやきかけてきた。

彼の双眸に気になってかぎゅっと抱きしめてその顔を覗き込んだ。

大真面目に問われた内容を、鼻先で笑うようなことはなかった。
彼に向き直り、その瞳を真っ直ぐに見つめる。
同様に、色の違うその瞳を。

それからひとつ息を吐いた。

突然話しかけられたこともあり、緊張しつつ答える。

見られていたことが気になったのか、うつむいたままもじもじ